p.31 抽出テキスト
3 血栓性素因(推奨表5) 40歳代以前のVTEの発症や,再発性の症例,家族歴に若年性の血栓症がある場合,およびまれな部位(門脈血栓・脳静脈洞血栓など)の血栓症を合併している場合には,血栓性素因があることを想定して検査を行う必要がある. VTEの誘因となる日本人に一般的な凝固線溶系の異常は,先天性のものとしてプロテインC欠乏症,プロテインS欠乏症,アンチトロンビン欠乏症があり,中でも日本人ではプロテインSの量的,質的異常が相対的に多い192).後天性のものとして抗リン脂質抗体症候群があり,活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)の延長,抗核抗体などの自己免疫検査陽性例では特に注意を要する.したがって,スクリーニング検査としては先天性のものに対してプロテインC,プロテインS活性(および遊離型プロテインS抗原量),アンチトロンビン活性を測定する. 抗リン脂質抗体症候群のスクリーニングではループスアンチコアグラント,抗カルジオリピン抗体,抗カルジオリピン-β 2グリコプロテインI抗体の3種の抗体を測定する.抗リン脂質抗体が認識する抗原はリン脂質そのものではなく,リン脂質と結合した血漿蛋白であるため,わが国では抗β 2-グリコプロテインI抗体の代わりに,抗カルジオリピンβ 2-グリコプロテインI複合体抗体を測定する. 検査実施・解釈の際には以下の点に注意する.1血中アンチトロンビン活性の測定はヘパリン使用時に採血すると活性が低下する.2プロテインCおよびプロテインSはワルファリン投与中には低下するため,ワルファリン投与前に血栓性素因検索用の血液検体を保存しておく.3わが国では遊離型プロテインS抗原量が正常値となるプロテインS異常症プロテインSK196Eバリアントの保有者が多いため193),活性の測定もあわせて行う.4DOAC内服時はDOACの種類や測定法によってはプロテインCやプロテインS活性値が偽高値となることがある.なお,抗リン脂質抗体症候群の診断のためには,12週間 以上の間隔をおいて2回陽性となる必要がある.欧米で多く認められる凝固第V因子Leiden遺伝子変異194)やプロトロンビンG20210A変異195)は日本人ではきわめてまれである. 4 フローチャートと重症度 4.1 PTEの診断フローチャート 急性PTEの確定診断は画像診断によって行われる.画像診断には造影CT検査,肺血流シンチグラム,肺動脈造影,MRI検査,経胸壁・経食道心エコー図検査などがある.現在は診断能の向上や迅速性を鑑み,造影CT検査が確定診断の標準的な画像検査となっている2). 急性PTEの診断フローチャートを図7 に示す2).病歴,問診,診察により急性PTEを臨床的に疑い,循環虚脱もしくは心肺停止を呈する場合には,胸骨圧迫を中心とする通常の心肺蘇生法に反応しない場合も多い.まずはすみやかな補助循環装置V-A ECMO導入の検討を行い,その後に画像診断を検討する.低血圧もしくはショックを伴う場合には,心エコー図検査による評価も参考に,その時点でヘパリンの急速経静脈投与を検討しつつ,造影CT検査による確定診断を行う.低血圧もしくはショックを伴わない場合には,急性PTEの検査前臨床的確率の推定を行う. 検査前臨床的確率が高い場合には,Dダイマーが陰性でも急性PTEを否定できない.したがって,確定診断のために造影CT検査を実施する.一方で,検査前臨床的確率が低い場合にはDダイマー値を測定し,基準値以下であればPTEは否定的と判断できる. 4.2 PTEの重症度判定 急性PTEの重症度判定は,事前に予後を推定することにより,急性期の治療方針の検討に加えて,近年では入院治療か外来治療かの選択にも重要となっている.重症度の予測には,臨床的パラメータである患者背景,症状,急性PTEに関わるバイタルサイン(脈拍,血圧,呼吸状態)に加えて,画像所見やバイオマーカーなどが用いられる. 4.3 臨床的パラメータによる重症度判定 臨床的パラメータである患者背景,症状,およびバイタ 推奨表5 VTE の血栓性素因に関する推奨とエビデンスレベル 推奨クラスエビデンス レベル VTE の原因として家族性,再発性,若年性,膠原病が疑われる患者では,凝固制御系蛋白質,抗リン脂質抗体症候群 *の検索を考慮する. IIa C *抗リン脂質抗体症候群においては,DOACよりもワルファリンが好ましい.