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p.25 抽出テキスト

1 症状と臨床所見

1.1 急性PTE

急性PTEは,診断の根拠となる特異的な症状や所見がなく,多くの患者は症状が乏しいこともあり,診断が難しいことが多い.問診でVTEの誘因や危険因子(第1章3. VTEの危険因子参照)が確認される場合はPTEの臨床的確率は高くなる123-128).ただし,問診上問題がなくても,他疾患で症状の説明ができない場合には,PTEの除外を進める必要がある.また,急性PTEはDVTを併発する場合が50~60%と多く129-131),それに起因した片側下肢の下腿浮腫や疼痛などの症状を認める場合も併発を疑う131, 132).

一方で,DVTは無症状例も少なくなく,下肢症状,所見がないからといってPTEを否定してはならない.さらに,入院中または術後の患者や,車中泊などで長時間座位をしていた者が,安静解除後の最初の歩行時や,排便・排尿時の移動や動作,体位変換時に突発的な症状を発現した場合にも,PTEを疑う133).

表6に代表的な症状と所見の発生率を示す.診療する場面や施設によって患者の重症度が異なるため,症状の発生率も変化する131, 134-137).これらの症状は心肺疾患を基礎疾患として有する患者で呈しやすい.症状は呼吸困難,胸痛が多く,他には咳嗽,発熱,喘鳴,冷汗,血痰,動悸,めまい,失神があげられる.喘鳴を呈する場合は気管支喘息と見誤りやすい138).胸痛にはおもに胸膜痛と肋骨下痛があり,前者は末梢肺動脈の閉塞による肺梗塞に起因し,後者は中枢肺動脈閉塞による右室の虚血によると考えられている1).失神も重要な症状で,中枢肺動脈閉塞による重症PTE例にみられることが多い.特に初回の失神発作で来院した患者には,急性PTEも鑑別疾患として念頭に置く139).血痰は末梢肺動脈の閉塞による肺梗塞によって起こる.

臨床所見では,頻呼吸,頻脈が多く,その他,重症化に伴い低酸素血症やチアノーゼ,右心不全・右室負荷に伴う

所見,心原性ショックがみられる134, 135, 140).PHにもとづくおもな所見としてIIp音の亢進があり141),右室拍動を認めることもある132).右心不全をきたすと頚静脈の怒張132)や吸気時に増強する右心性III音,IV音を認める1).crackle (断続性ラ音)は肺梗塞や無気肺を伴うと聴取することがあり132, 142),胸水貯留により打診で濁音となり声音振盪が低下する1).

1.2 DVT

DVTの症状と所見は,急性期と慢性期に区別される.急性期には,血栓形成による流出抵抗の増大とその末梢側での静脈還流障害,ならびに血管周囲の炎症反応が関与している143, 144).症状や所見には多くの場合,片側肢の腫脹や浮腫,疼痛,色調変化,熱感,下腿の把握痛がみられる134, 143, 144).下腿限局型のDVTでは無症状のものも多いが,充満型で,より中枢側,特に大腿深部静脈や大伏在静脈との接合より中枢側に伸展するものは,側副流出路が不足し症状をきたしやすい144).表在静脈の拡張が目立つこともある.

また,まれではあるが重症化すると有痛性白股腫(phlegmasia alba dolens)や有痛性青股腫(phlegmasia cerulea dolens)とよばれ,著しい下肢腫脹,緊満から動脈灌流障害を生じ,激しい虚血性疼痛,患肢白色化さらにはチアノーゼをきたすほか,頻脈やショックといった全身症状が引き起こされることもある143, 145, 146)(第1章1. 病態と疾患の定義参照).

慢性期は血栓後症候群(PTS)とよばれる症状を呈する144, 147).3ヵ月ごろより出現し,経年的な悪化がみられる143).症状・所見には疼痛,こむら返り,重苦感,知覚異常,掻痒感,腫脹,浮腫,表在静脈の拡張,静脈瘤,色素沈着,発赤,下腿圧迫による痛み,脂肪皮膚硬化症がみられ,重症型では皮膚潰瘍を呈する110, 147, 148)(第1章6. 慢性疾患への移行[PTSとCTEPD]参照).

第2章 VTEの診断