GL検索 v0.1.0
画像は 16 ページを描画したものです
page 16

p.16 抽出テキスト

静脈が右腸骨動脈の後方を走行する際に圧迫を受けやすいこと(iliac compression syndrome),この部位に一致して左腸骨静脈内に線維性篩状物(pelvic venous spur)が存在し,左下肢の静脈うっ滞を生じやすいことなどが考えられている.

末梢型DVTの多くはヒラメ筋静脈から生じる.DVTでは深部静脈に生じた血栓により静脈還流障害が生じることや,静脈壁での炎症が生じることにより,さまざまな症状を呈する.非常にまれではあるが,腸骨大腿静脈に急速に大量血栓が生じることで下肢の著明な腫脹と動脈攣縮を生じ,下肢は蒼白となり,有痛性白股腫(phlegmasia alba dolens)とよばれる病像を呈する.さらに血栓が広範囲に及ぶと,下肢は腫脹緊満,持続性の激痛,チアノーゼを呈し,有痛性青股腫(phlegmasia cerulea dolens)となり,動脈の血行障害から下肢壊死(venous gangrene)を生じることがある.

また,深部静脈血栓が遊離し,肺動脈へ流入することで急性肺血栓塞栓症(PTE)を発症する.急性PTEの塞栓源の90%以上は下肢深部静脈あるいは骨盤内静脈由来である.このようにDVTとPTEは密接に関連しており,一連の疾患群と捉えて静脈血栓塞栓症(VTE)と総称される.

急性PTEの臨床像は,まったくの無症状で画像検査にて偶然みつかるような軽症例から,発症と同時に心停止に至る重症例まで,肺動脈を閉塞する血栓量や患者の心肺予備能によって大きく異なる.血栓塞栓による機械的閉塞だけで循環動態の変化を説明しきれない場合も多く,血栓塞栓と流血中の血小板との相互作用の結果,セロトニンやトロンボキサンA2といった体液性因子が放出され,肺血管攣縮や気管支攣縮を引き起こすとされる11-14).

急性肺動脈圧上昇は右室の拡張をきたし,心室中隔の左方偏移から左室拡張障害を引き起こす.また,右室壁応力増加により右冠動脈の心筋への灌流障害から酸素供給が妨げられ,右室の微小梗塞がトロポニン上昇を,右室負荷が脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP),N末端プロ脳性ナトリウム利尿ペプチド(NT-proBNP)上昇につながることとなる15, 16).

肺梗塞は急性PTEの15~20%に合併するとされ,病理学的には出血性梗塞である17, 18).肺動脈中枢側より末梢側の血栓塞栓で生じやすく,肺梗塞を生じれば胸膜への炎症波及に伴い胸膜性胸痛や発熱,血痰をきたすことになる19).

卵円孔開存や心房中隔欠損を有する症例では,一過性右房圧上昇に伴って右左シャントを生じると奇異性塞栓症による脳梗塞の原因となり,急性PTEの予後不良因子とされる20). 2 疫学

2.1 PTE

PTEは,欧米では虚血性心疾患,脳血管障害に次ぐ3大致死的血管疾患の1つと認識されている.米国においては, PTEの年間発症数が30~60万人(1万人あたり10~20人),死亡率100万人あたり約28人で,最近も減少していないとされている21-24).わが国では,PTEはまれな疾患と考えられていたが,過去の研究をまとめた2015年の研究では発症数は増加している25).1996年の疫学的調査によると,わが国におけるPTE診断数は人口100万人あたり28人と推定された26).2006年には発症数は7,864人,100万人あたり62人と推定され,10年間に2.25倍に増加したが27),一般に米国に比べ少ないと考えられている.ただし,コンピュータ断層撮影(CT)の導入進歩でPTEの診断精度が上がり,症候性のみならず偶発所見の無症侯性末梢型PTEが含まれてきていることにも注意が必要である.わが国の死亡統計によると,2021年のPTEによる死亡数は1,672人であり,100万人あたり13人,循環器疾患死亡の0.66%で,近年はほぼ一定である28).死亡数も米国に比して少ない.

急性PTE患者の性別や好発年齢については,1994~ 1997年の肺塞栓症研究会調査では女性に多く(60.5%),平均年齢は60歳で,60~70歳代にピークがあった29).2010 ~2014年のわが国のVTE登録研究COMMAND VTE Registry,2012~2017年の循環器を中心とした入院患者データベースであるJROAD-DPC調査,2010~2020年のDPC調査では,女性がそれぞれ62%,59%,58.9%とやや多く,平均年齢66.7歳,69.1歳,68.7歳であった30-32).

JROAD-DPCの解析では,対象施設となったわが国の1,021施設に入院したVTE患者のうち,PTE患者は51%を占め,そのうち5.7%が心停止患者であった.病院全死亡は,PTEの9.6%に対し,DVTでは2.0%であった31).

2010~2020年の入院患者の診断群分類別包括評価(DPC)を使用したPTE患者88,966人の解析では,9.1%が血行動態の不安定な高リスクPTEであった.高リスクPTE患者では,静脈-動脈方式体外膜型人工肺(V-A ECMO)の使用が増加し(11.0%から21.3%),血栓溶解薬の使用(22.5%から15.5%),院内死亡率(51.0%から43.7%)が減少した.非高リスクPTEの患者では,直接作用型経口抗