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p.132 抽出テキスト

5.2 抗凝固療法

CTEPH治療において,抗凝固療法はもっとも基本かつ必須の薬物治療であり,生涯にわたる継続が必要である. 2022年改訂版ESC/ERSガイドライン114)で抗凝固薬として推奨されているのはワルファリン(推奨クラスI,エビデンスレベルC)のみであるが,抗凝固薬が予後やCTEPH増悪を予防するか否かについて,その有効性や安全性を示した前向き研究は存在しない.

DOACは,PTEに対する急性期治療,および二次予防に第一選択薬として用いられ,実臨床においてはPTEからCTEPHへ進展した症例でDOACが継続されている例が散見されている.しかしCTEPHにおける使用経験は浅く,有効性,安全性は確認できていない.

英国においてPEA後のCTEPH患者を後ろ向きに観察した多施設研究では,VTE再発率(0.8%/人・年 vs. 4.6%/人・年)はDOAC群のほうがワルファリン群より高かったが,大出血性合併症発症率(0.7%/人・年 vs. 0.7%/人・年),および5年生存率(90% vs. 92%)は同等であった. VTE再発は特に術後6ヵ月以内が多いことから術後早期のDOAC投与には注意が必要かもしれない1070).トルコのレジストリ研究からは,DOACで大出血リスクが低い可能性が示唆されている1157).

リオシグアトを内服するCTEPH患者の前向きに収集した市販後国際多施設調査であるExpert研究では,重大な血栓性イベント発生率はビタミンK拮抗薬群で17/683人(1.6%),DOAC群で8/198人(2.9%)であり,統計学的な有意差は認められなかったものの,DOACにおいて血栓性イベントが増加する可能性が示唆された1071).一方,わが国のCTEPH ACレジストリのデータからは,DOACがワルファリンと比較してCTEPH増悪リスクを高めることなく,出血リスクを抑制した1072).

わが国において世界ではじめてとなる,CTEPH患者においてワルファリンとDOACを直接比較する検証的RCTであるKABUKI試験1069)が行われ,主要評価項目である48週後のPVRの変化(比)について,エドキサバンのワルファリンに対する非劣性が示された.臨床的に重要な出血の発生率は,48週間の介入期間においてエドキサバン群1/37人(2.7%),ワルファリン群2/37人(5.4%)で,症候性DVT,死亡は両群ともに認められなかった.以上のエビデンスにもとづき,エドキサバンは再灌流治療後のCTEPH患者に対してワルファリンと同等の有効かつ安全な抗凝固療法として考慮される.

今後,CTEPH患者に対するDOAC投与は世界的に増加することが予想される.早期にワルファリンおよび

DOAC投与例の大規模なレジストリを構築し,両群を比較するレジストリ研究や,CTEPH患者においてワルファリンを対照としてDOACの有効性,安全性を検証する前向きRCTを行う必要がある.

6 肺動脈肉腫,PPS,血管炎

(推奨表38)

肺動脈狭窄・閉塞にもとづくPHはCTEPHだけではなく,肺動脈肉腫,末梢性肺動脈狭窄症や各種血管炎においても認められる.これらは病態,予後ともCTEPHと異なるため,肺換気血流ミスマッチを認めたPHにおいては,肺動脈造影などの画像診断においてCTEPH以外の第4群PHを鑑別することを失念してはならない.

6.1 肺動脈肉腫

肺動脈に生じる肉腫のほとんどは内膜から生じ,内腔に発育する内膜肉腫を呈するため,急性/慢性の血栓塞栓症と誤認されやすい1158, 1159).正確な発症率は不明だが, CTEPHのPEA標本の1~4%が組織学的に肉腫と診断されたとの報告がある1056).391症例の集積では,年齢中央値52歳で,男性が55%とやや多かった1159).

造影CT,MRI,PETなどの画像診断が早期診断に有用で,特に造影CTでの不均一な造影や辺縁不整,肺動脈幹~右室流出路の腫瘤像などがCTEPHとの鑑別に有用である1158)(図30A).PET所見は陰性でも肉腫を否定できない.組織学的には多くが未分化肉腫,あるいは多形肉腫を呈するが,正確な組織型,悪性度の判定には多数マーカーを用いた免疫染色による総合的な判断を要する1160).内膜肉腫症例の多くで遺伝子増幅が示されるMDM2の免疫染色も,

推奨表38  CTEPH 以外の第4 群疾患の治療に関する推奨

とエビデンスレベル

推奨クラスエビデンス

レベル

肺換気血流ミスマッチを認めたPH においては,画像診断に際してCTEPH 以外の第4 群疾患の鑑別を考慮する. IIa C血管炎活動期のPH 患者では免疫抑制療法を考慮する. IIa C末梢性肺動脈狭窄症(PPS)患者にカテーテル治療と肺血管拡張薬を組み合わせた治療を考慮してもよい. IIb C