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p.127 抽出テキスト

BPAの特性上1セッションでの治療標的血管数が多く,すべての病変ごとに最適な種類,サイズ,長さとすることは医療経済面からも困難である.その観点からtaperingバルーンを使用することも選択肢となる.

最終的なバルーンのサイズは本来の血管径,器質化血栓の量を考慮して決定する.また,拡張の目標は造影所見上の狭窄度の改善ではなく,肺血管床への灌流を正常に近づけることである.これにはプレッシャーワイヤーなどによる病変以遠の圧評価が有用なこともある1108).

3.3.4 術中合併症発症率と管理

BPAの合併症発症率は,軽微なものを合わせると冠動脈インターベンションよりも高い.術中合併症の多くはワイヤー穿孔やバルーン拡張に伴う肺出血と考えられる.ときにガイディングカテーテルの先端による肺動脈解離を生じることもあるが,発症率は低く,多くの場合は特別な処置の必要なく自然治癒する638, 1100).肺出血が血痰などの形で臨床的に顕在化するセッションは5~15%程度であるが,術後のX線やCTで確認される臨床症状を呈さない小出血の発症率はそれより高い638, 1100, 1102, 1104, 1114).手技に起因する肺出血は病変形態,ワイヤーの先端荷重,術者の習熟度などによる.その出血が血痰などとして臨床的に顕在化するか否かは,肺動脈圧や拡張後の病変遠位の灌流圧の影響を受ける1103, 1108, 1115).このため,肺動脈圧が高いときにはリスクの高い病変や手技を避け,webやring-like stenosisなどを中心に治療することが望ましい638, 1104).

他に,肺動脈圧が高い状態で施行されたBPA後には再灌流性肺水腫のリスクが高まることも示されており,患者の状態に応じた適切な治療戦略の選択が重要である1093, 1108).プレッシャーワイヤーなどを用いて病変末梢の平均圧を測定し,拡張後に35 mmHgを超えないようにすることや,小径バルーンから開始するstaged BPAなどの工夫がなされている1103, 1108, 1113).BPA中の酸素やNO吸入療法(iNO)肺動脈圧を低下させることも合併症軽減に寄与する可能性がある1116, 1117).リオシグアト内服とBPAを比較したRACE試験では,リオシグアト内服を先行した患者でBPA施行時の重篤な合併症の発症率が低かったことが示されている1080).

肺出血などの合併症を重篤化させないためには,発生を早期に認識し,対応することが肝要である.出血は造影で視認しにくいこともあるため,ガイドワイヤーの動向だけでなく,咳嗽など患者が発するサインに常に気を配る必要がある.肺出血を起こした際には,原因血管にカテーテルをwedgeさせる,近位部でのバルーン拡張などで血流を遮断し,止血する.多くはこれらの手技で止血されるが,血管の損傷が激しく止血ができない場合は,ゼラチンスポン

ジやコイルによる塞栓が有効である.

3.3.5 エンドポイントの決定

BPAは複数のセッションで完遂するため,「患者としてのエンドポイント」と「各セッションのエンドポイント」に分けて考える必要がある.

患者としてのエンドポイントはmPAPやPVRなどの血行動態,症状,年齢,合併症のリスク,腎機能,患者の希望,BPA施行施設へのアクセスなど多くの要素に影響を受ける.特に制限がなければ治療可能な肺動脈すべてを十分に拡張する完全血行再建をエンドポイントとすることで,術後のWHO機能分類,酸素化,運動耐容能などがより改善する1106).

各セッションのエンドポイントは,病変形態,PHの重症度,腎機能などの患者要因と,透視時間,造影剤使用量,術者の体力など患者外要因の両面を考慮して決定すべきである.冠動脈インターベンションなどと異なり治療枝が多数に及ぶため,各セッション終了の絶対的な基準に乏しい.術者の集中力持続の限界を超えれば合併症リスクが高まるため,一定の透視時間,被曝量や造影剤使用量でセッションを終了するよう,施設ごとのルールを設けることも検討される.

また,前述のようにPHが重症の間に多くの肺区域の病変を最大限まで拡張すると,重篤な合併症が引き起こされる可能性が高まる.mPAPがきわめて高い症例の初回セッションでは,血流量が多い下葉領域のwebやring-like stenosisなどを数本のみ,対象血管径の50%程度のバルーン径を用いて拡張するにとどめることも検討される.

3.4 術前・術後管理

3.4.1 術前管理

a. 抗凝固療法

わが国の抗凝固療法に関する調査では,術前に行っていた経口薬による抗凝固療法を継続しながら術中にヘパリン静注を併用する施設,事前に経口抗凝固薬からヘパリン静注に切り替える施設などさまざまであり,BPA周術期の標準化された抗凝固療法は確立されていない1084, 1093, 1109, 1118).ただし,どの施設の報告でも,手技中に何らかの抗凝固療法は継続されている.術中合併症としては,手技に関連した肺血管損傷といった出血合併症が最多であるため1104, 1117),術中の出血合併症出現時の手順に関し,施設ごとの状況に応じて事前に整備する必要がある.