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p.120 抽出テキスト

胸痛,失神,動悸,咳嗽で,PAHとほぼ同様である.他覚的所見としては,低酸素血症や労作時SpO2低下,夜間SpO2低下,胸部聴診にてII音の肺動脈成分の亢進,右心性IV音,肺野の肺血管性雑音である.右心不全をきたすような重篤なケースでは,浮腫,呼吸困難感,腹部膨満感などの症状を認める.また,DVTを疑う下肢の腫脹や疼痛などの症状の既往も診断の参考となる.CTEPHに特異的な症状はなく,症状のみでCTEPHとその他PHを鑑別することは困難である.

またCTEPH診療の現場では,器質化血栓による肺動脈の閉塞や狭窄を認めPHのあるCTEPH,PHのない慢性血栓塞栓症(CTED)の概念が広く使われてきた.しかし安静時にPHがなくとも労作時息切れや運動誘発性PHをきたすことがあり,安静時のPHの有無で病態を分けるのではなく,慢性血栓塞栓性肺疾患(CTEPD)という包括的な概念が提唱された1054).症候性でPHを伴わないCTEPDの有病率は不明である1055).

1.4 病理

CTEPHでは不完全な血栓溶解のために肺動脈内に残存した血栓が器質化し,肺動脈の狭窄や閉塞を起こす.主たる病変は弾性肺動脈レベルにあり,ほとんどの症例で両側にみられる1056).病変の局在から,主肺動脈から連続して肺区域枝レベルまで内膜肥厚が起こっている場合(中枢型)と,おもに区域枝から内膜肥厚が始まっている場合(末梢型)に分けられるが,中枢型と末梢型が合併することもある.まれに最末梢の肺動脈(外径1 mm以下)にのみ血栓形成が認められ,臨床的にPAHとの鑑別が困難となる症例がある.

組織学的に中枢側では血栓が器質化して線維性組織となり,内膜と一体化した像や架橋構造(fibrous band)を認める.区域動脈レベル以下では器質化した血栓により線維性に閉塞した部分に再疎通血管が多くみられる篩状病変(colander-like lesion,図24)が特徴的で,肺動脈造影のwebsに相当し,肺動脈血栓内膜摘除術(PEA)の摘除組織中に多く含まれれば,術後急性期の血行動態の改善と関連するとの報告もある1057, 1058).二次的変化として中枢側では新鮮な壁在血栓,粥状硬化,拡張・瘤状変化をしばしば認める.

また近年,末梢の筋性肺動脈レベル以下の肺動脈や肺静脈病変といったmicrovasculopathy(small vessel disease)の存在も病態に関わるとされ,術後のPVRの変化との関連が報告されている651, 652).これらの成因として,非閉塞部の末梢では血流増加に伴うずり応力などによる血管病変の形成,閉塞部の末梢では気管支循環からの側副

血行の発達に伴う血管病変の形成が推測されている1059).なお,閉塞部領域では陳旧性肺梗塞を認めることがある.

2 診断と治療アルゴリズム, CTEPHチーム

2.1 診断アルゴリズム

CTEPHはすべてのPH患者において診断時に疑うべき疾患であり,その有無を検査する必要がある.CTEPHの危険因子1060)として,PTEの病歴,血管内のデバイス留置(ペースメーカ,長期中心静脈ライン,心室シャント),炎症性腸疾患,本態性血小板血症,真性多血球血症,脾臓摘出術,抗リン脂質抗体症候群,高用量甲状腺ホルモン補充,担がん状態があげられる.急性PTEの病歴を有する患者では,診断時のCTPAにおいて肺動脈内で急性とは明らかに形態の異なる器質化した壁在血栓を認める例1061), 3ヵ月以上の十分な抗凝固療法にもかかわらず心エコー図上PHを強く疑う例114),PTE後の臨床経過で呼吸困難や活動制限が持続する例1062)では,CTEPHを疑うべきである(図25 114),表42 2, 1054, 1063)).

2022年改訂版ESC/ERSガイドライン114)のCTEPH診断アルゴリズムでは,心エコー図検査でPHを疑われた患者に対して,血液検査,心電図,胸部X線,血液ガス,肺機能検査,胸部高分解能CTを施行し,肺疾患と左心性心疾患を除外したうえで,CTEPH除外のため肺換気血流シシンチグラフィの施行が必須としている. 500μm

図24 手術により摘除されたCTEPH 患者の肺動脈内膜末梢の区域枝動脈レベル以下では,篩状の再疎通像が認められる.