p.119 抽出テキスト
1 疫学,成因,症状 1.1 疫学 欧米では,本症は急性PTEからの移行を想定しており,古い報告では,急性PTE患者43人に対し,抗凝固療法を主体とした治療の中で血栓の残存が12%にみられ,うち慢性例への移行は1人であった1042).米国における急性PTEの推定年間発症数は50~60万人で,急性期生存例の0.1 ~0.5%がCTEPH へ移行するものと推定されていた1043, 1044).その後の報告では,急性PTE例の 2年時点のフォローアップで, 3.8%に慢性化が認められた1045).最近のわが国からの報告でも,急性PTEの52人において,1年時点での詳細な造影CT評価では74%に血栓の残存,3.8%にCTEPHを認めた121).急性PTE例では,本症への移行を常に念頭に置くことが重要である. わが国では,1997年に厚生労働省(旧厚生省)特定疾患呼吸不全調査研究班が本症の診断基準を定め1046),全国調査を行っている.全国推計患者数は450人(95%CI 360~ 530人)と報告された1047).その後,本症は難病に指定されたことから毎年疫学調査が行われている.2013年度の1,022人の臨床調査個人票の解析では,女性が多く(女3:男1),平均年齢は66±13歳で,40代以上では女性が多かったが,若年者では性差は認められなかった1048).2020年度は4,608人と報告されている1049). 1.2 成因 本症の正確な発症機序はいまだ明らかでないが,上述の通り,欧米では急性PTE例からの移行を想定している.しかし,わが国では本症における急性PTEの既往が少ないこと(29%)や,DVT合併率が低いこと(28%)などから,急性例からの移行とは異なった発症機序の存在も考えられている1047).CTEPHの基礎疾患として,血液凝固異常 14.6%(そのうち抗リン脂質抗体症候群75%),心疾患12.8%,悪性腫瘍9.8%などが認められたが,43.9%の症例では明らかな基礎疾患が認められなかった1047).またDVTの危険因子として,抗リン脂質抗体のほか,アンチトロンビン,プロテインCまたはSなどの欠乏症も報告されているが,合併率は高くはなかった1047). 最近では,急性血栓の慢性化の要因として,血管新生の異常が報告されている1050).また,CTEPHでは,急性PTEを示唆する時期があった後,数ヵ月~数年の無症状期間(honeymoon period)がみられる症例もあり1043),この期間のPHの進展機序は不明である.PHの要因として重要なのは血管閉塞の程度で,多くの症例では40%以上の肺血管閉塞を認めるが,閉塞率とPVRの相関は高いとはいえない.肺血管床は線溶能が高く,ほとんどの新鮮血栓性塞栓を処理する能力があるが,血栓反復,肺動脈内での血栓の伸展などに加え,何らかの機序で血栓の処理ができない場合,器質化が進行すると考えられる.これに関しては近年では,1PAHでみられる細いレベルでの血管病変,2血栓を認めない部位の増加した血流に伴う血管病変,3血栓によって閉塞した部位より遠位における気管支動脈系との吻合を伴う血管病変などの存在から,microvasculopathy (small vessel disease)という概念も導入されてきている1051). 本症の肺組織においてアンジオポエチン1のmRNAの発現が亢進し,PVRと相関し,またBMPR1-Aの発現が低下していることも報告されている1052).わが国では,ヒト白血球抗原(HLA)-B*5201やHLA DPB1*0202と関連する病型がみられることが報告されている1053).これらのHLAは急性PTEとは相関せず,欧米では保有率がきわめて低いタイプのため,わが国では欧米とは異なる発症機序をもつ可能性が示唆されている.今後,CTEPH発症機序の解明が進むことが期待される. 1.3 症状,臨床所見 CTEPHの主要な自覚症状は労作時の息切れ,易疲労感, 第9章 第4群 CTEPH