p.117 抽出テキスト
4 AHS 4.1 病態 肺胞低換気症候群(AHS)は,低酸素血症および高二酸化炭素血症を示すまれな疾患である.睡眠に関連して低換気がみられ,低酸素血症が悪化する.肺実質や気道障害,肺血管病変,胸郭異常,薬剤,神経疾患,筋力低下,肥満はその原因とならない. わが国では指定難病改訂(2018年4月)で,肺胞低換気症候群(指定難病230)として,特発性中枢性肺胞低換気症候群,先天性中枢性低換気症候群,肥満低換気の一部の3つの病態が該当することとなったため,その観点からAHSをとらえる必要がある.先天性中枢性低換気症候群は,延髄呼吸中枢の先天的異常(反応性低下)に伴う呼吸調節障害に起因して,乳幼児に発症する疾患と定義され,同病態は呼吸中枢の形成および自律神経系の分化・誘導に重要なPHOX2B遺伝子変異との関連が報告されている1025). 4.2 症状 本疾患の症状は,睡眠中の低換気による高二酸化炭素血症,低酸素血症の程度に関係する.病初期から高二酸化炭素血症が存在するが,それのみでは症状に乏しい.しかし病態の進行に伴いさらに高二酸化炭素血症が悪化し,低酸素血症が明らかになると,不眠傾向や中途覚醒時の息苦しさなどの睡眠障害,早朝覚醒時の頭痛,日中の眠気(過眠),認知障害などが生じる.さらに病態が進行すれば, II型呼吸不全となり,肺高血圧を合併し,右心不全(呼吸困難や全身の浮腫),多血症が出現してくる.他にも日中活動性低下に伴う諸症状がある1025). 4.3 診断 厚生労働省「指定難病230」肺胞低換気症候群の診断基準に準ずる. 4.4 治療 本疾患は呼吸中枢の異常による肺胞低換気がおもな病 た1013).ただし,PHの有無や程度に関しては検討されていないものの,安静時の酸素飽和度(SpO2)が89~93%のCOPD患者に対する24時間の長期酸素療法(1~6年間の治療)や,労作時の低酸素血症を呈するCOPD患者に対する運動時,睡眠時の長期酸素療法は,死亡率や最初の入院までの期間を延長させなかったという結果が,LOTT Research Groupから報告された1014).安静時PaO2 が60 mmHg以下の呼吸不全を呈する患者以外では,長期酸素療法の恩恵は乏しい可能性がある.一方,PAP高値例やCIの低い患者では,PaO2が高くても,組織酸素化の指標であるPvO2が低い可能性があることに考慮する必要がある1015). 3.5 肺血管拡張薬 COPDおよび肺気腫に伴うPHへのPAH治療薬の適応は確立されていない.重症COPD-PH 例(mPAP 39 mmHg,PVR 7 Wood単位)では,シルデナフィルで肺血行動態やBODE指数,QOL指標(修正MRC,SF-36)が改善したとの報告がある一方1016),軽症COPD-PH例(mPAP 32 mmHg,PVR 4.2 Wood単位)では6分間歩行距離や血行動態の改善は認めなかった1017).COPD-PH患者136人(mPAP 42 mmHg,PVR 7.2 Wood単位)にトレプロスチニル吸入を用いたPERFECT試験では,主要評価項目(6分間歩行距離)を改善せず,実薬群で倦怠感,呼吸困難や重篤な有害事象が多かったことから試験が中止された1018).ILDで有効であったトレプロスチニル吸入が, COPDでは効果がなかった原因は不明であるが,トレプルスチニル吸入はCOPD-PHに推奨されない. これまでのメタ解析では,肺血管拡張薬により肺血行動態は改善するが,6分間歩行距離の改善は乏しいとするものが多い969, 1019-1024).ただし,重症PH(mPAP≧35 mmHgやsPAP≧50 mmHg)を対象としたRHC検査確定例では,運動耐容能の改善を示唆するデータもある1019, 1020).肺血管拡張薬による低酸素性肺血管攣縮解除が換気血流ミスマッチを助長する可能性があるため,ガス交換障害には注意が必要である969).レジストリでは重症PHの30%程度が機能分類やPVRなどの改善を示し,レスポンダー例で生存率が向上したとの報告もあるが,大規模RCTは存在せず,明確なエビデンスは不足している969, 970).COPD-PH,ことに重症PHが疑われる場合や治療に迷う場合には,肺疾患およびPHの専門医との相談や,専門医への紹介が推奨される114, 960, 969).