p.114 抽出テキスト
2.2 病態 IIPは喫煙や粉塵などの環境因子と遺伝要因が複合して発症し,反復的な肺胞上皮細胞障害によりTGF-βやPDGFなどの増殖因子が産生され,線維芽細胞による肺間質のリモデリングと血管リモデリングが進行してPHを合併する971).進行例では肺動静脈の肺血管床が大きく減少し972, 973),低酸素性肺血管攣縮974)も加わり,予後不良となる.PHの合併はILDの生命予後を悪化させることが知られており,進行IPFにおけるPH合併例の1年死亡率は36.8%と不良であった583).他の第3群PHとの比較でも, COPD-PHやCTD-ILD-PHと比べ不良であることが示されている732, 958, 975). CPFEは,上葉優位の気腫と下葉優位の間質性変化が共存する病態604)で,肺全体の換気障害がみかけ上軽度でも,広範な肺実質障害や血管床減少によってILD/COPD単独のPHと比べ重度の肺拡散能力障害やガス交換障害976)をきたす.CPFEではPHの合併率が高く977, 978),1年死亡率は40%と予後不良である979).気腫性,間質性変化の程度や原因が多様なため,CPFEの統一的な診断基準は確立されていないものの,高率のPH合併と深刻な予後を念頭に置いた対応が必要である980). 2.3 診断 ILDの明らかな進行がない状態で,息切れの悪化, SpO2 の低下,運動耐容能の悪化などを認めた場合はPHの合併を疑う981).PHの診断にはRHC検査を行うことが必要であるが,心エコー図検査はPHのスクリーニングに用いられる一方,移植待機中の重症肺疾患374人を対象とした研究では,48%が心エコー図検査でPHと誤診断された.推定右室圧についても引き続き施行されたRHC検査の結果と乖離がある582). CT画像を用いた検証では,肺動脈径/大動脈径比の増加,末梢肺動脈数の減少がILD-PHの診断や予後予測に有用である.ILDを対象とした検証では,肺動脈/大動脈比増加(>1)群で有意に死亡または肺移植のリスクが上昇した982-984).また,CT上の肺血管の減少が肺拡散能の低下と相関していた985). BNPとDLCOと心エコー図検査を組み合わせたスクリーニング検査が,ILD-PHの診断精度を高めることも報告されており986),RHC検査を施行すべきILD症例を選択するのに有用な可能性がある. 2.4 治療 2.4.1 ILDに対する治療 ILD自体に対する治療に関しては,ステロイド薬や免疫抑制治療に加えて,近年はIPFや進行性のILDに対して抗線維化薬が使用される987).薬物療法以外にも,適切なリハビリテーションや長期酸素療法の導入も重要である.慢性呼吸不全を呈したILDにPHの合併を認めた場合,低酸素性肺血管攣縮の関与を考え,長期酸素療法を開始することが多いが,長期酸素療法による予後改善効果は証明されていない.これらの治療が十分に行われたにもかかわらずPHが残存する場合,PHの重症度に応じて肺血管拡張薬の投与を検討する. 2.4.2 肺血管拡張薬の全身投与 エンドセリン-1はIPFの病態進行に関与するとされ,ボセンタン,アンブリセンタン,マシテンタン(すべてERA)のIPF治療薬としてのRCTが行われたが,いずれも運動耐容能や拘束性換気障害への有効性は示されなかった988-991).PDE5阻害薬のシルデナフィルも,IPFで6分間歩行距離を延長させる効果は確認されていない992). ILD-PHに対する肺血管拡張薬の効果は複数の研究で検証され,小規模研究では一定の肺循環動態改善が示唆された例もある993, 994).しかし,IIP-PHにボセンタンを投与したRCTではPVRやWHO機能分類,自覚症状のいずれも改善がみられず995),大規模レジストリ(COMPERA)の解析でもPDE5阻害薬などによる運動耐容能の改善は示されなかった967).ただし,投与後にPVRやWHO機能分類が改善した治療反応群では生存率が向上しており,特にCTD-ILD-PHでは治療反応性が良好である可能性も示唆されている958, 967, 996). PDE5阻害薬は換気血流不均衡を起こしにくい特性997)から,ILD-PHなど肺病変を伴うPHにしばしば使用されるが,生命予後や臨床パラメータへの有効性を裏付けるエビデンスは限られる975, 998).抗線維化薬との併用でも, QOL改善や病勢進行抑制効果は確認されなかった999, 1000). アンブリセンタン(エンドセリンA受容体拮抗薬)やリオシグアト(可溶性グアニル酸シクラーゼ刺激薬)はIPFやIIP-PHに対して,重篤な有害事象,死亡率の増加や臨床指標の改善欠如などの結果から投与は推奨されない581, 990, 1001).以上より,ILD-PHに対する肺血管拡張薬の有用性は今後のエビデンス蓄積が必要であり,メタ解析でも6分間歩行距離・呼吸機能障害・重篤な有害事象に関し