p.103 抽出テキスト
あり」,複数のケースシリーズや類似の作用機序をもつ薬剤の症例報告が複数ある薬剤を「関連の可能性あり」にそれぞれ分類している.第7回肺高血圧症ワールドシンポジウムで提案された薬剤(表35) 572)を内服していないか聴取することは重要である. チロシンキナーゼ阻害薬(TKI)の1つであるダサチニブは,慢性骨髄性白血病やフィラデルフィア染色体陽性の急性リンパ性白血病に用いられる.フランスのレジストリでは,ダサチニブによるPAHの発症率は0.45%と推測されている862).ダサチニブの投与開始からPAH発症までの期間は,中央値42ヵ月(範囲8~74ヵ月)と幅広く,PAHが発症しやすい時期は明確になっていない863).わが国の報告でも,ダサチニブの投与期間や累積投与量と肺高血圧発症の間に関連を認めなかった864).このため,心エコー図検査をルーチンで行うことは現実的でないが,PHを疑う症状やダサチニブの副作用として多い胸水の出現時に行うことは考慮される.また,心エコー図検査でベースラインの評価を行うことが望ましい. ダサチニブによるPAHの治療については,前向きのRCTは行われていない.ダサチニブ関連PAHと診断された21人についての観察研究では,ダサチニブは全例で中止され,そのうち11人に肺血管拡張薬が投与された863).その結果,6分間歩行距離の改善に加え,19人の患者でWHO機能分類の1クラス以上の改善を認めた.また12人の患者は中央値9ヵ月(範囲3~40ヵ月)以内に3 Wood単位未満へのPVRの改善を認めていたことから,PAHを診断された時点でのダサチニブを中止することが望ましい.ダサチニブだけでなく,他のチロシンキナーゼ阻害薬で あるボスチニブやポナチニブでもPAHの発症が報告されている865, 866).ダサチニブからボスチニブに切り替えた後にPAHが増悪した症例もあり865),ダサチニブの代替薬を決める際にはこの点も考慮すべきである. 薬剤性PAHの重要な原因薬剤として青黛(せいたい)がある.青黛はおもに藍染の染料として用いられてきたが,わが国のRCTで潰瘍性大腸炎に対する有効性が示されている867, 868).しかし,青黛投与患者でPAHを発症したという複数の症例報告があり,厚生労働省からも勧告が出された869-872).同省調査グループによると,潰瘍性大腸炎49,320人のうち877人(1.8%)で青黛が使用され,そのうち11人でPAHを発症していた873). 9 HIV感染症に伴うPAH(HIV関連 PAH)(推奨表32) 9.1 疫学,成因 HIV感染症に伴うPAHは第1群に分類される.PAH症例に占めるHIV関連PAH症例の割合は,欧米では0.2~ 6%と報告されている577, 732, 874-876).わが国の2 つの多施設研究ではいずれも0%だが771, 877),欧米に比較し解析症例数が少なく,疫学データは不足している.HIV関連PAHの発症メカニズムは十分に解明されていないが,HIVは少 表35 薬物・毒物誘発性PAH 発症に関与する薬物,毒物 PAH 発症への確実な関連があるものPAH 発症への関連の可能性があるものアミノレックスベンフルオレックスダサチニブデクスフェンフルラミン,フェンフルラミンメタンフェタミン有毒な菜種油マイトマイシンCカルフィルゾミブアルキル化剤アンフェタミンボスチニブコカインジアゾキシドC型肝炎に対する直接作用型抗ウイルス薬(ソホスブビル)青黛インターフェロンαおよびβレフルノミドL-トリプトファンフェニルプロパノラミンポナチニブ有機溶剤セントジョーンズワートベバシズマブボルテゾミブ「確実な関連」に分類されているものは,症例報告やケースシリーズに加えて,疫学研究またはファーマコビジランス研究の報告がされているものが該当する. (Kovacs G, et al. 2024 572)より改変) ©Kovacs G, et al.2024. CC BY-NC 4.0.