p.100 抽出テキスト
ACHD患者に占めるPAHの割合は国内外で3~7%と報告されている832, 833).ACHDに伴うPAHは女性に多く,発症率は基礎病変に依存し,年齢や欠損閉鎖年齢とともに増加する834).小児循環器領域の内科的,外科的治療の進歩によりACHDに占める複雑先天性心疾患の割合は年々増加しており,この中にはPAHを合併する,もしくは小児期に合併していた患者が一定数含まれる835).このため,今後PAHを発症する単純短絡心疾患に伴うACHD患者(たとえは心房中隔欠損[ASD]やVSDなど)に加え,複雑心疾患や病態を有するPAH合併患者への対応が重要になってくると予想される836, 837). ACHD関連PAHの進行型であるアイゼンメンジャー症候群の臨床像は,チアノーゼを含む慢性低酸素血症による多臓器への影響と,二次性赤血球増加症や血小板減少症を含む血液学的変化によって特徴づけられる829, 838).おもな症状は,呼吸困難,疲労,失神である839).アイゼンメンジャー症候群はまた,喀血,胸痛,脳血管障害,脳膿瘍,凝固異常,突然死を呈することもあり,成人期の予後は不良である840).21トリソミー(ダウン症候群)の患者は小児期からアイゼンメンジャー症候群へ進行するリスクが高いことが知られており,成人期の予後は不良である841). 7.1 診断とリスク評価 ACHDに伴うPAHの診断は,臨床症状,病歴,身体所見,画像診断(特に心エコー図検査),運動負荷試験などで行われるが,基礎となるCHDの血行動態全体の把握を心がける必要がある.PAHの診断を確定し,治療介入を 行うには,肺血流/全身血流(Qp/Qs)を算出するためのカテーテル検査が必要である.心内シャントが存在する場合には,フィック法を用いる.同時にCTやMRIを用いた画像評価,運動負荷試験などの多角的評価も重要である. ACHD関連PAHの予後悪化の予測因子は,WHO機能分類III/IV度,6分間歩行距離またはpeak V 4 O2で評価した 運動耐容能,右心不全による入院歴,血中バイオマーカー(NT-proBNP>500 pg/mL,CRP>10 mg/mL,血清クレアチニン高値,アルブミン低値),鉄欠乏,RV機能障害の心エコー図指標などが報告されている114, 838). IPAH患者と比較すると,単純短絡心疾患に伴うアイゼンメンジャー症候群の患者は若年成人までは比較的安定した長期臨床経過をたどる842).これは,右心系から左心系への右左短絡によって右心系負荷が軽減され,低酸素血症とチアノーゼを合併するにしてもCOを維持できるためと考えられる.しかし,成人期に達するとアイゼンメンジャー症候群の予後は小児期と同様ではない838).これまでの検討で,成人アイゼンメンジャー症候群の死亡率は,シャント部位,高齢,安静時酸素飽和度,洞調律の欠如,心嚢液貯留の有無と関連していることが報告されている114). 7.2 治療(推奨表28~30) ACHD関連PAHの治療成績は,新しいPAH治療薬の導入,外科的・経カテーテル治療の進歩,PH専門医を中心 表34 ACHD におけるPAH の分類(1)アイゼンメンジャー症候群小児期には体-肺シャントとして発症し,経過とともに重篤なPVR上昇,逆シャント(肺-全身)または双方向シャントへと進行する.心内外のすべての大きな欠損を含む.通常,チアノーゼ,二次性赤血球増加症,多臓器病変がみられる.欠損部の閉鎖は禁忌である. (2)大きな体肺短絡を伴うPAH群a)修復可能な群b)修復が難しい群中等度から大きな欠損を含む.PVRは軽度から中等度に上昇し,体肺短絡が存在するが,安静時 のチアノーゼは顕著ではない. (3)小/偶発性欠損を伴うPAH血行動態上,有意と考えられない心欠損(通常,心エコー図上10 mm未満のVSDまたは20 mm未満のASD)が存在する場合にPVRが著明に上昇するが,欠損孔径からはPVR上昇の原因と結びつかない状態.臨床像はIPAHとよく似ている.欠損の閉鎖は慎重に判断する. (4)欠損部修復後のPAH CHDは修復されたが,PAHは修復直後から持続するか,あるいは術後に有意な血行動態病変がないにもかかわらず,修復後数ヵ月から数年たって再発/発症した群. (Kim NK, et al. 2024 831)を参考に作表)