p.95 抽出テキスト
で管理されることが望ましい. 観察研究において,心臓移植後の妊娠中4.5 ~19% で拒絶反応が発生したと報告されているが,これらの研究には予期せぬ妊娠例が多く含まれており,一般に移植心機能が安定し,併存疾患のない経過良好な心臓移植レシピエントでは拒絶の率が低いと考えられている532).拒絶反応に対しては免疫抑制薬の用量調整を行い,ISHLT2004 のGrade 2R 以上のAMR が診断された場合には通常と同様のステロイドパルスを行う214, 534). 心臓移植患者では免疫抑制療法による糖尿病をきたしうるが,妊娠は耐糖能を低下させることが知られており,既存の糖尿病の悪化や妊娠糖尿病の発症につながる可能性がある531, 549). 心臓移植患者では高血圧の合併もしばしばみられるが,妊娠中に起こる循環量の増加と血液希釈は高血圧の発症を促進しうる531, 550, 551).また高血圧に加え腎機能障害の有病率も高いため,心臓移植患者では妊娠高血圧症候群が増加する534). 移植後は免疫抑制療法による易感染性からCMV の初感染および再活性化がしばしばみられるが,妊娠中のCMV感染症は胎児の先天性CMV 感染症のリスクとなり,知的障害,小頭症,視覚障害や難聴をきたしうる552).このため心臓移植後の妊娠においては,定期的なCMV 検査が推奨される531). ISHLT のステートメントによれば,周産期管理としては母体または胎児の状態悪化がない場合,妊娠は39 週ごろまで継続されるべきであり,それ以前に状態の悪化を認めた場合は適切な分娩誘発や帝王切開を検討すべきとされている531).出産時の母体の移植心機能,妊娠合併症を含む全身状態および胎児の状態により,経腟分娩が可能かどうかを判断する214, 534, 553).分娩時には心機能のモニタリングが必須であり,適切な鎮痛が推奨される. 7 終末期医療⦆ ISHLT レジストリによれば,心臓移植後の生存率は10年間で60% 程度で,主たる死亡原因としてグラフト不全,感染症,CAV,多臓器不全,急性拒絶反応,リンパ腫を含む悪性腫瘍,腎不全などが報告されている6).わが国の心臓移植後の成績は良好であるとはいえ,同様な経過をたどる症例が経験される.心臓移植後に生じるこれらの病態に対して,免疫抑制療法を継続しながら対応する必要がある ため,特に免疫抑制療法が病態を悪化させうる感染症,リンパ腫を含む悪性腫瘍,腎不全などの治療は難渋することがある. 治療困難となった感染症やリンパ腫を含む悪性腫瘍,移植心以外の脳を含む諸臓器機能不全が高度で回復が期待できないと考えられる場合,種々の免疫抑制療法によってもコントロールできない急性拒絶反応,血行再建が困難で末期心不全となったCAV など,心臓移植治療の目的が果たせない状態(終末期)になったと判断される場合には,免疫抑制療法を含めた治療の継続を検討する必要がある. 治療の継続や中断の判断は,ほかの循環器疾患の治療における終末期医療554)と基本的に同様である.終末期医療に際しては本人および家族の意思を確認することが重要であり,本人の意思を確認できない場合には家族の意思が尊重される.治療継続による治療効果を得がたい末期的状況であることを十分説明し,理解され受容されれば,治療の中止,また新たな治療や治療の高度化を行わないことなどを検討する.これらの判断は,心臓移植後の場合,貴重な善意のドナー心を提供されたという特殊な事情もあり,特に慎重な配慮が求められる.医療従事者や家族らの間で意見がまとまらない場合には,臨床倫理コンサルテーションなどを利用し,複数の専門家から助言を得て多職種チームで意思決定のプロセスを進めることが推奨されている555).緩和ケアについては,循環器疾患における緩和ケアに準ずる554).終末期においては,ホスピスを含めた苦痛や心理的負担を軽減するケアプランへの変更も考慮する必要がある. 末期状態におよぶ以前に,末期における対応,意思疎通ができなくなった場合の代理意思決定などについては,本人・家族と相談し,対応方法を決定しておくことが望ましい556).そのためには,移植後のみならず,移植前から本人や家族に移植後の生活さらには終末期のことも含めて情報提供や継続的な意思決定支援が必要であろう.心臓移植に到達する患者の大多数は移植待機中に植込型VAD 治療を行っており,植込型VAD 治療においてはアドバンス・ケア・プランニングとして事前指示書の取得を行っていることが多いが,心臓移植後は定期的に事前指示書の取得を行っていない場合が多い.心臓移植後患者に対するアドバンス・ケア・プランニングも重要であり,そのためには意思決定のための十分な情報提供とともに,患者の治療意欲や人生観の把握,家族を含めた社会背景を把握することが必要であろう.