p.93 抽出テキスト
以上のように,心臓移植レシピエントの妊娠出産を検討する際には,周産期の母体・児合併症を考慮し,妊娠前のカウンセリングや適切な症例選択,妊娠中および周産期の母体・胎児や新生児の管理が重要であり,産科,循環器,移植医療領域の医師およびメディカルスタッフに加えて麻酔学,新生児学,心理学,遺伝学などの専門家を含む多職種のチームが参画する必要がある. 6.2 妊娠前カウンセリング 心臓移植後レシピエントにおいて最適な妊娠・出産を達成するためには妊娠前からの多職種によるチームの参画が必要である531).心臓移植後の妊娠には血行動態学的および免疫学的リスクが伴うため,妊娠前からのカウンセリングが重要である532).カウンセリングは妊娠の希望や移植後の妊娠のタイミング,移植後特有の問題を含む母体および胎児のリスク,最適な意思決定支援が含まれ,妊娠適齢期のすべての患者に行われることが望ましい.移植心機能や併存疾患,免疫抑制薬のMMF をはじめとする定期薬による形態異常誘発性は,母体・胎児双方のリスクとなりうるため,妊娠・分娩は計画的に行われることが望ましい. しかし欧米では心臓移植レシピエントにおいて多くが予期せぬ妊娠であったとの報告もあり536, 537),ISHLT のステートメントでも適切な避妊法およびその重要性が記載されている531).男性の心臓移植レシピエントがパートナーとの間に挙児を希望する場合も,投薬による形態異常誘発性や生殖能への影響について確認しておく必要がある.腎移植領域で父親へのMMF 投与による出生転帰のリスク増加はなかったことが報告されており538),挙児希望の男性におけるMMF は継続可能と考えられる. 抗CMV 薬として保険適用があるガンシクロビル,バルガンシクロビルは妊娠中の投与は禁忌であるとともに,遺伝毒性のためパートナーが妊娠する可能性のある男性においても投与期間中および投与後90 日間は有効な避妊が必要である. また,動物実験においてCNI やEVL による精子数減少,精子運動能低下およびオスの生殖能低下が報告されている.遺伝性の心筋症もしくはその疑いがある場合,先天性心疾患のレシピエントは遺伝カウンセリングの重要性も高く,出生時およびその後定期的な児のスクリーニングが必要となる537). 6.3 妊娠のタイミングと禁忌 拒絶反応のリスクは移植後の最初の6 ~12 ヵ月でもっとも高く,強力な免疫抑制療法を必要とするため,移植後 管理に関する2023 年のISHLT ガイドラインでは移植後最初の1 年以内では妊娠を試みるべきではないと勧告している(Class I,エビデンスレベルC) 47).また米国移植学会は妊娠を考慮するにあたり,過去12 ヵ月間に拒絶反応がなくグラフト機能が安定していること,活動性感染症がなく,免疫抑制療法が安定していることを推奨している539). ISHLT のステートメントでは心臓移植に至る心臓原疾患が周産期心筋症の場合に心臓移植後の妊娠がハイリスクである可能性について言及されているが,これを裏付けるエビデンスには乏しい531).表28 531)に妊娠を避けることが望ましいとされる心臓移植後の病態について示す. 6.4 妊娠中の免疫抑制薬を含む薬剤管理 妊娠中も拒絶反応や,それに伴うグラフト不全を防ぐために適切な免疫抑制療法を維持することが重要である.しかしながら,妊娠中の生理学的変化が免疫抑制薬を含む薬剤の薬物動態に重大な影響を与える可能性や,子宮内での薬剤曝露による胎児毒性などを慎重に考慮する必要がある.ISHLT のステートメントでは妊娠中の免疫抑制薬としてステロイドやCNI が比較的安全性が高いと報告されており531),これらを中心とした免疫抑制療法を考慮することになる. Tac やCyA といったCNI は心臓移植後の主要な免疫抑制薬であり,移植後妊娠に関連する国際レジストリからの 表28 妊娠を避けることが望ましい病態 病歴移植後1 年以内アドヒアランス不良抗HLA 抗体ドナー特異的抗体陽性免疫抑制療法適正な濃度のCNI で拒絶反応コントロール困難MMF 中止困難拒絶反応1 年以内の拒絶反応歴抗体拒絶反応歴心機能症候性のグラフト不全LVEF <30%重度の弁狭窄CAV Grade 2 以上のCAV合併症・併存症コントロール不良の高血圧コントロール不良の糖尿病重度の腎機能障害(eGFR <30mL/min/1.73m 2 など)著明な蛋白尿活動性感染症1 年以内のCMV 感染症 (Kittleson MM, et al. 2023 531)を参考に作表)