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p.92 抽出テキスト

することが望ましい.小児や思春期の心臓移植後患者はさらに精神症状を合併するリスクが高く,家族との関係やその変化が状況を複雑化する可能性があることに留意する47).

精神症状に対して向精神薬を使用する場合,心血管系への安全性ならびに免疫抑制薬との薬物相互作用の2 点に十分な配慮が必要528)であり,精神科・薬剤師など多職種との情報共有が必須である.ISHLT2023 では,心臓移植患者のうつ病・うつ状態に対して選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI,特にcitalopram)および新規抗うつ薬のミルタザピンの使用が2010 年版と同様にClass I,エビデンスレベルB で推奨されている47).フルボキサミンはCNI (Tac,CyA)が代謝を受けるCYP3A4 に対する阻害作用を有するため,避けるべきである(Class I,エビデンスレベルB).三環系抗うつ薬は心毒性(心伝導障害,低血圧,抗コリン作用)を有するため,その使用は重症の治療抵抗性うつ病に限定すべきとされている(Class I,エビデンスレベルB) 47).ベンゾジアゼピン系抗不安薬は心血管系へのリスクはほとんどないが,依存性(特に常用量依存)が問題となるため,漫然とした長期投与を避けるべきである528).

5.3 社会的側面

心臓移植後,多くのレシピエントの対人関係,社会的な役割,娯楽活動は移植前に比べて改善し,時間経過とともにさらに社会に適応していく傾向にある529).多くの患者が移植後,就労を開始あるいは再開するが,欧米では心臓移植後1 ~12 年における就労率(雇用からボランティアまで含む)は22 ~86% と報告されている529).

一方で,移植後にたとえ患者が就労可能な状態になっても,移植前の不安定な就労歴や長期離職,身体的問題のために実際の就労につながりにくいのも事実である530).

医療者,家族は心臓移植後には就労が可能となることを移植前から認識し,術後リハビリテーションの目標として位置づけ,支援すべきである.そのためにも移植前から可能な限り就労を継続する(退職しない)よう指導する.ソーシャルワーカーは移植チームの一員として,機能的,身体的な制約を含めた就労能力の評価,復職に向けたリハビリテーションのコーディネート,雇用主への情報提供などを行う529). 6 妊娠出産

6.1 妊娠・分娩・出産

日本における心臓移植後の妊娠の報告は乏しいが,外科手術および免疫抑制療法などの進歩とそれに伴う長期成績の改善により,妊娠適齢期に達する心臓移植レシピエントは少なくない.2023 年にISHLT から心臓移植を含む胸部臓器移植後のステートメントが発表され531),慎重に患者を選択すれば心臓移植後の妊娠出産の管理も可能532)と考えられるが,通常の妊娠・出産に比較して合併症の頻度は高い.1987 年から2018 年10 月までの国際的な移植後妊娠に関するレジストリからの報告533)では,心臓移植後レシピエント100 例における177 件の妊娠が登録されており,生児出産は67% で新生児死亡は1%,流産25% であった.出生児のうち在胎37 週未満の早産は43% であった.2020年に発表された心臓移植レシピエントを含む胸部臓器移植レシピエントにおける妊娠のシステマティックレビューおよびメタ解析の報告によれば534),心臓移植後の妊娠中母体死亡率は0.5%,3 ~7 年の追跡期間中の死亡率は10.8% であった.生出産は79.9%,流産22.0%,死産1.9%,中絶5.8% であり,生児のうち3.8% が新生児死亡であった.妊娠中に9.4% で拒絶反応を認め,腎機能障害を11.5%,高血圧を25.8%,妊娠高血圧腎症を17.8%,妊娠糖尿病を6.0% に認めたと報告している.

また,米国における2010 ~2020 年の再入院データベースに基づく報告によれば,心臓移植後レシピエントの重度の母体合併症,早産,出産後1 年以内の再入院は非レシピエントに比較して高率であった535).

このように心臓移植レシピエントの妊娠出産はハイリスクであると考えられるが,これらの海外からの報告については計画外の妊娠が含まれているものも多く,それが合併症の一因である可能性がある531, 532).ISHLT のステートメントによれば,心臓移植後の妊娠について,母体や胎児へのリスクに関する特有の問題に留意する必要があるが,一般的に移植心機能が安定し形態異常誘発性のない免疫抑制療法下に,拒絶反応や胎児への影響をもたらす感染症がコントロールされていれば,移植レシピエントの妊娠は比較的安全とされている531).わが国でも2021 年に日本移植学会より臓器移植後妊娠・出産ガイドラインが発刊されており6),参照されたい.