p.86 抽出テキスト
については,観察研究でCAV の予防効果が示されており,ガイドラインでも使用することが推奨されている469, 470). また海外のガイドラインでは,移植後はコレステロール値にかかわらず全患者にスタチンを使用することが推奨されている.目標となるLDL コレステロールレベルに関するエビデンスはないものの,通常は100 mg/dL 以下が推奨され,CAV を認めるもしくはハイリスクな症例ではさらに積極的脂質降下療法が有効である可能性がある.スタチン使用下で,もしくはスタチン不耐のため残存する高LDL血症に対しては,エゼチミブやPCSK-9 阻害薬が推奨されるが47),PCSK-9 阻害薬による治療がCAV 予防に有効かどうかは明らかでない471). 現在,CAV に対して有用性が示されている免疫抑制薬がmTOR 阻害薬である.mTOR 阻害薬であるEVL を用いた免疫抑制薬のレジメンにより,冠動脈内膜肥厚の抑制効果が数多くの臨床試験で示されている235).近年では,mTOR 阻害薬をより移植後早期から開始し長期間用いることでCAV の抑制さらには予後改善効果が示されている206, 245). 3 悪性腫瘍 心臓移植後の免疫抑制剤によりがん免疫が抑制されることに加えて,おもに使用されるCNI はそれ自体がトランスフォーミング増殖因子β1(transforming growth factor β1: TGF-β1)や血管内皮成長因子(vascular endothelial growth factor: VEGF)を増加させる作用と,がん抑制遺伝子のp53 を抑制する作用を併せもつため472),悪性腫瘍の発症・進行を促進させる.その他,EBV(PTLD),ヒトパピローマウイルス(子宮頚癌や膣癌),肝炎ウイルス(肝癌),ヘルペスウイルス8(カポジ肉腫)などの発癌ウイルスへの感染も増加するため,移植後,悪性腫瘍の発症率は増加し,悪性腫瘍の発症は予後を著明に低下させる473).2019年のISHLT の統計によると,移植後3 年以降で悪性腫瘍による死亡率は20% 程度を占め,移植後5 年以降では最大の死因となる.成人では皮膚癌,前立腺癌,肺癌,乳癌などが多く,小児では移植後の悪性腫瘍の発症率は10 年で10% と成人と比較し低く,大部分がPTLD である474, 475).しかしながら,わが国での移植後の悪性腫瘍の発症に関するデータはまだ不十分であり,今後のデータの蓄積が望まれる. 悪性腫瘍発症のリスク因子として,免疫抑制剤の継続的な使用に加え,高齢,男性,移植前の悪性腫瘍の既往などがあげられる.悪性腫瘍の既往のあるレシピエントにおい ては,移植後の全死亡率,悪性腫瘍による死亡率,新規の悪性腫瘍発症率いずれもが有意に上昇し,悪性腫瘍発症から移植までの期間が短いほど悪性腫瘍発症率が高くなる可能性が示唆されており,計画的な対応が必要となる476, 477)(表25) 478-480). 3.1 診断と治療 全悪性腫瘍の予防のために,免疫抑制剤は可能な限り最小限の投与にするように努める.皮膚癌の予防には日々の紫外線対策や全身の皮膚の観察481),固形癌の早期発見,早期診断のためにはがん検診が重要である47, 480).現時点では悪性腫瘍予防や発症時の適切な免疫抑制剤の調整方法はまだ確立していないが,CNI やAZP は発癌作用をもち,一方でmTOR 阻害薬はproto-oncogenic pathways を阻害し,抗ウイルス作用ももつことから482),悪性腫瘍発症時にはCNI は減量,もしくは中止とし,mTOR 阻害薬主体のレジメンへの切り替えを検討する483).mTOR 阻害薬は唯一抗がん剤としても使用される薬剤であり,悪性腫瘍の発症率,再発率,全死亡率のいずれも低下させることが 表25 心臓移植後の悪性腫瘍に対する対策方法 リスク因子年齢(≧ 40 歳) 男性悪性腫瘍の既往 喫煙歴あり 予防(全例)免疫抑制剤の最小化 ・CNI の減量・EVL の導入などワクチン接種・HPV ワクチン・HBV ワクチン紫外線対策,皮膚の観察 種類対象検診方法肺がん40 歳以上1 年ごとの胸部X 線前立腺がん40 歳以上1 年ごとのPSA 検査乳がん40 歳以上自己触診+2 年に1 回のマンモグラフィ大腸がん40 歳以上1 年ごとの便潜血検査その他固形がん国のがん検診に準ずる(Yoosabai A, et al. 2015 478),Higgins RS, et al. 2014 479),厚生労働省.がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針2024 480)より作表)