p.81 抽出テキスト
予後にも影響を与えることが報告されている421).移植直後から急性期は,移植前に低心拍出に伴う心腎連関によって腎機能が低下していた患者は,移植後の循環動態の改善により,一過性にeGFR が上昇する一方で,移植前に腎機能が保持されていた患者はeGFR が低下するが422),最終的には,移植前から腎機能障害を認めている患者のほうが腎機能障害を有する割合が多いことが報告された422).この結果は,移植後の腎機能の推移を予測するために有用であり,移植前に腎機能障害を有する患者においては,移植後急性期eGFR の変化によらず,薬剤性腎機能傷害のリスクとなるCNI の減量247, 423)もしくは終了238)といった免疫抑制療法や減塩といった腎保護戦略を検討する. CNI の急性毒性反応は,血管攣縮,血栓性の微小血管症および中毒性尿細管障害などによると示唆されている424).急激な腎機能障害の進行を認め,CNI による急性毒性反応を疑う場合には,腎ドプラエコーにより腎動脈の血管攣縮を評価することで,早期に診断に至る可能性もある229). また,急激に原因不明の腎機能悪化を認める場合にはBK ポリオーマウイルス(BKV)腎症による腎機能障害を考慮する必要がある425).BKV は一般的に,多くは小児期に感染し,おもに腎尿細管や尿路上皮細胞に潜伏感染する.免疫抑制状態において,尿細胞診でDecoy 細胞を検出するBKV 尿症から,血中のBKV-DNA を検出するBKV 血症へと進展し腎機能傷害の原因となり,最終的にBKV 関連腎症を発症する.心臓移植後患者では,移植後1 年以内に19% でBKV 尿症を認め,5% でBKV 血症を認めるとされているが,発症リスク因子や推奨されるモニタリング方法は確立していない425).腎移植における最新のガイドラインでは,定量的なPCR によるBKV-DNA のスクリーニングが推奨されているが426),保険適用外の検査である.原因不明の腎機能障害で尿中のDecoy 細胞を検出する場合には,BKV-DNA の検出および腎生検による確定診断を検討する.治療法は明確ではないが,免疫抑制薬の減量(特に,代謝拮抗薬を減量または終了してmTOR 阻害薬へ変更)が効果的である可能性がある426). 1.2.4 頻脈を有する移植後患者 心臓移植後は副交感神経系の除神経により洞房結節の抑制が失われることにより安静時心拍数が持続的に上昇するとされている427).交感神経系の除神経は,運動やストレスに対する洞房結節への反応の遅延に寄与し,運動による心拍応答が低下し,運動耐容能の低下につながる427).心拍数が高いことは心臓移植後の予後不良と関連するという報告があり,β遮断薬428),カルシウム拮抗薬および過分極活性化環状ヌクレオチド依存性チャネル(Hyperpolariza- tion-activated cyclic nucleotide-gated channel: HCN チャ ネル)阻害薬(イバブラジン塩酸塩) 429)などの使用が予後を改善するという報告もあり,今後のエビデンスの構築が望まれる430). 2 CAV CAV は臨床的には急激に症状が出現することもあり,致死性不整脈や心筋梗塞,突然死などきわめて重篤な結果をもたらす.心臓移植後は,心臓への交感神経支配が切断されているため,狭心症様の症状は認められない.臨床症状が出現するのは,大部分の患者ではCAV がかなり進行した段階である.CAV を早期に診断するには,後述するように定期的な冠動脈造影や冠動脈血管内超音波法(IVUS)などによる冠動脈の評価が必要である. ISHLT の統計によると,近年の心臓移植後の1 年生存率は約85%,5 年生存率は約75% であるが,その後の生存曲線も直線的な右下がり(毎年3 ~4% の低下)を形成している97).CAV は,このような移植後遠隔期のおもな死因の1 つである.急性拒絶反応や感染症が一番問題となる急性期から一段落した慢性期に問題となり,その発生機序の1 つとして免疫学的要因が推定されることから,以前は「慢性拒絶反応」ともよばれていた.ISHLT 統計では,移植後5 年間のCAV 回避率は約70%,10 年間で約50% となっている97). わが国のCAV の疫学についてまとまった報告はないものの,日本心臓移植研究会のレジストリではCAV が原因で死亡した症例は2022 年末までで2 例のみとなっている431). CAV により冠動脈内膜に傷害をきたす機序は,免疫学的と非免疫学的に分けて考えられる(図23) 432).免疫学的要因には細胞性およびAMR,CMV 感染などがあげられ,非免疫学的要因としては脳死時(特にくも膜下出血)の大量カテコラミン放出,移植手術時のドナー心虚血と再灌流障害,移植後高血圧,移植後耐糖能異常,移植後脂質異常症,Tac による血管内皮障害,また高齢ドナーなどがあり,またドナー心由来の動脈硬化性変化も加え,それらが総合的に本病変を形成する433). 免疫学的機序によるCAV は,移植心の心外膜冠動脈から心筋内動脈に至るびまん性で進行性の冠動脈内膜肥厚が特徴的である.粥状冠動脈硬化症と類似点もあるが,免疫学的機序が主体の場合は,びまん性で末梢の冠動脈まで侵されるのに対し,粥状冠動脈硬化症では冠動脈の所々が限