p.75 抽出テキスト
いため,現在のところそのリスクは不明である. 5.9 その他 5.9.1 アスペルギルス 大規模な前向きコホート研究において,心臓移植後患者における侵襲性真菌感染の12 ヵ月累積発生率は全体で3.4% と報告されており,アスペルギルスはもっとも頻度の高い真菌症の1 つである.一般的には移植後6 ヵ月以内の早期に発生することが多く,危険因子としてATG の使用,再手術,移植後透析,CMV 感染が知られている349, 350).アスペルギルス芽胞は一般環境に広く存在しており,感染は通常芽胞の吸入により惹起され,呼吸器系,副鼻腔,皮膚,中枢神経系,腹腔内などの侵襲性アスペルギルス症に進展する.アスペルギルス症は,心臓移植患者のあらゆる肺感染症の鑑別診断において考慮されるべきである.診断は気管支肺胞洗浄や結節病変の生検による証明が有用であり,血液培養の陽性率は低いことが知られている.血液検査ではアスペルギルス抗原のほか,アスペルギルス-PCR の診断価値が高い.後者は血液のほか喀痰,各種組織を用いても測定可能である.深部真菌感染症の指標であるβ-D-グルカンの上昇も診断の契機となるが,アスペルギルス感染症に特異的でないことに留意する.現時点では,アスペルギルス症に対する予防的な抗真菌薬の投与は推奨されていない. 5.9.2 トキソプラズマ トキソプラズマ症はトキソプラズマ原虫を原因とした人獣共通感染症である.免疫抑制状態にある心臓移植後患者においては,ドナーの臓器から,もしくは不適切に調理された食肉や寄生虫卵に汚染された猫などのペットの排泄物などを介して感染する可能性がある.移植後,特に6 ヵ月以内の発症が多く,再活性化による感染の場合はそれ以降に発症する傾向がある.ST 合剤はトキソプラズマ感染症の予防に有効であることが示されている351). 臨床症状としてはリンパ節腫脹とは血球減少を伴う発熱として現れることがもっとも多いが,脳炎,肺炎,心筋炎としてもみられる.トキソプラズマに関連した心筋炎の症例は時に急性拒絶反応と同様の症状を示すことがあるが,トキソプラズマ症は心筋病理所見において好酸球の増加がある点で鑑別される.確定診断には病理学的所見が重要だが,トキソプラズマに対するIgG およびIgM 抗体の血清学的検査も診断の補助に有用である.髄液トキソプラズマPCR の感度は不均一であるが,特異度は高いことが知られている352). トキソプラズマ抗体陰性のレシピエントが抗体陽性のドナーから心移植を受けた場合のアウトカムについては一定の見解が得られていないが,ミスマッチがある場合はST合剤などによる予防を行うことが検討される353). 6 免疫抑制治療に続発する病態 6.1 腎機能障害 心臓移植適応検討時は,心不全増悪により他臓器機能が低下していることが多い.移植待機期間中の右心不全による腎うっ血,感染,抗生物質使用,非ステロイド性抗炎症薬などにより待機中にも腎機能障害は進行しうる.心臓移植術前に1/3 以上の患者で慢性腎臓病(CKD) grade 3 以上であったという報告がある354).術前クレアチニン・クリアランス(CCr)が50 mL/min 以下の症例は,50 mL/min以上の症例に比べ術後30 日以内の死亡率が有意に高いことも報告されている355).そのため,待機中も腎機能の維持に努めることは移植後管理の上でも重要となる(推奨表5). 心臓移植後急性期に無尿,乏尿,血清クレアチニン値が急激に上昇する際には,体液量の管理や腎代替のために早期に血液透析が考慮される.また,心臓移植周術期におけるCNI の早期開始は,CNI に腎血管収縮作用のため腎灌流圧が低下し,利尿薬に対する反応性が低下する.術前に腎機能障害がある症例や術後腎機能が悪化した症例においては,CNI 開始を遅らせるためのポリクローナル抗体であるATG やIL-2 受容体アンタゴニストであるバシリキシマブを使用する戦略も考慮される175, 176).心臓移植術後に急性腎障害を起こし血液透析を要した患者では死亡率が高率であったと報告されている354). 移植後患者ではしばしば腎機能障害を合併しており,進行しうる.腎機能の評価(eGFR,アルブミン尿)は少なくとも年に2 回は実施し,CKD の有無を同定し,CKD がある場合には腎臓内科専門医に紹介すべきである.心臓移植前の腎機能障害や心臓移植後のCNI による影響に加えて,高血圧,糖尿病,高コレステロール血症,長期に内服する抗真菌薬や抗ウイルス薬,CAV の診断目的で行う冠動脈造影に使用される造影剤などの影響により腎機能障害は進行する.さらに腎機能障害の進行はその後の死亡率上昇と関係する356).1990 ~2000 年,米国での臓器移植レジストリの報告(Scientific Registry of Transplant Recipients)