p.72 抽出テキスト
a. ワクチン接種 心臓移植後は生ワクチンの接種は原則禁忌となることから,移植までのあいだに麻疹,水痘,ムンプス,風疹については未接種であれば積極的に接種を勧めるべきである.一方でインフルエンザワクチンや肺炎球菌ワクチン,B 型肝炎ウイルス(HBV)などは不活化ワクチンであるため,インフルエンザワクチンについては心臓移植後も接種を見合わせる特別な理由がない限り接種が推奨される.またCOVID-19 ワクチンに関しては2024 年8 月時点では,インフルエンザワクチンと同様に接種が推奨される. b. 心臓移植前の感染スクリーニングと対策 心臓移植レシピエントは移植手術までに長期の入院を要することや,VAD を長期間装着していることが多く,鼻腔,咽頭,喀痰,VAD の脱送血カニューレやドライブライン挿入部の細菌培養と感受性検査を定期的に行っておくとともに,移植手術直前にも同様の評価を行う.また口腔内衛生にも留意し,齲歯や歯周炎についても定期的に評価と治療を行っておく. c. 周術期の感染症予防と管理 心臓移植周術期の感染症の病原体としては細菌と真菌が重要である.通常の心臓手術と同様にグラム陽性球菌および陰性桿菌をターゲットとして予防的な抗生物質の投与を行う.ただし,術前の各種培養の結果を確認し,特に慢性のVAD 関連細菌感染を合併している場合には,術前の細菌培養と薬剤感受性を参考にしたうえで適切な抗生物質の選択を心がけ,必要であれば抗MRSA 薬の投与も考える. VAD 装着に関連して真菌感染を合併している場合には,アゾール系抗真菌薬の投与を行うことは妥当と考えられるが,薬物相互作用によるCNI の血中濃度の変動には注意が必要である.近年公表された「深在性真菌症の診断と治療のガイドライン2014」328)では,VAD 後心臓移植症例はカンジダ症の高リスクと考え,抗真菌薬の予防投与を推奨している. 5.2 CMV CMV 感染は心臓移植後に問題となりやすい日和見感染の一つである.ドナー心や輸血製剤由来で感染することもあれば,内因性のウイルス再活性化によることや,移植後の生活の中で初感染することがある.したがってCMV 抗体陰性患者(R-)はもちろん,抗体陽性患者(R+)でも臨床的に問題になる可能性がある.一般的なCMV 感染は不顕性感染の形で感染し,生涯その宿主に潜伏感染し,免疫抑制状態下で再活性化し,種々の病態を引き起こす.免疫抑制剤服用中においては,症状や臓器障害をきたさないこともあれば,発熱や白血球減少,血小板減少などの症状を 伴う場合や,さらには間質性肺炎,消化管の潰瘍や炎症,網膜炎や脳炎などの臓器障害を伴い致命的となることもある.また間接的な影響として,急性拒絶反応や慢性期のCAV との関係も示唆されている. CMV 感染への対処法としては,予防治療(prophylactic therapy)と,定期的CMV 抗原血症検査(アンチゲネミア法)やreal-time PCR 法によるCMV-DNAemia の評価において感染を認めた場合に速やかに抗ウイルス薬を投与する先制治療(preemptive therapy)の2 つの考え方があり,移植施設によって異なる.海外においてはCMV 抗体ミスマッチ症例(CMV 抗体陰性のレシピエント(R-)にCMV抗体陽性のドナー心(D+)が移植された場合)の場合はCMV 感染症の高リスクと考え,3 ~6 ヵ月の予防的治療が推奨されている329).予防治療においては,その投与量および治療期間によりバルガンシクロビル耐性が問題となることが報告され,慎重なウイルスサーベイランスの下で先制治療を行う施設もある330). 予防治療においてはガンシクロビル5 mg/kg/日の静脈内投与を1 ~3 ヵ月間,あるいはバルガンシクロビル900 mg/日の投与をCMV 陽性患者(R+)に対しては3 ヵ月,抗体陰性患者(R-)には3 ~6 ヵ月間行う(ただし,わが国においてはバルガンシクロビルの心臓移植後の予防的投与については,100 日間を目安に使用することとなっている).施設によっては,早期に抗CMVγグロブリンの併用を行うこともある.その後は1 ~2 週ごとにCMV 抗原もしくはDNA の定量を行い,一定の量を超えた場合にはガンシクロビルもしくはバルガンシクロビルの治療用量の投与を最低2 週間行い,抗原もしくはDNA 定量の陰性化を2 回連続確認するまで継続する.小児にはバルガンシクロビルとして次式により算出した 投与量を1 日1 回,食後に経口投与する.ただし1 日用量として900 mg を超えないこととする(投与量(mg)=7 ×体表面積(m 2)× eGFR(mL/ min/1.73 m 2)).どちらの薬剤の場合も,投与量については腎機能によって調整が必要である点と,顆粒球減少症などの副作用の出現に注意する必要がある.予防治療の場合は,約3 割の患者で治療終了後に遅発性CMV 感染が生じることが報告されており331),抗ウイルス薬終了後も定期的なCMV 抗原やDNA 定量の監視の継続が必要である.一方で,先制治療の場合は移植後3 ヵ月までは,CMV 抗原もしくはDNA 定量を毎週評価し,陽性基準を超えた場合には臨床症状がなくとも治療を開始する. CMV に対する抗ウイルス薬の長期投与の弊害として,副作用に加えて薬剤耐性の問題がある.心臓移植後の他の薬剤でも起こりうる顆粒球減少の副作用のために投与困難