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p.71 抽出テキスト

4.2.1 拒絶反応を示唆する臨床所見

拒絶反応に特徴的な症状や臨床所見はなく,移植後外来においては一般的な症状の変化,新たなIII 音やIV 音の出現など心機能障害を示唆する身体所見,血液検査・心電図・心エコー図検査の変化に注意を払い,拒絶反応の可能性を疑うことが重要である.日々の体調やバイタルサイン,免疫抑制剤の内服量をノートに記載してもらい,外来受診時に確認する.心不全症状は通常,中等度以上の拒絶反応で認められ,免疫系が活性化されることに伴う倦怠感,筋肉痛,悪心嘔吐,発熱などの非特異的な症状も認めることがある.

4.2.2 バイオマーカー

高感度の心筋逸脱酵素(トロポニンI およびT)は, ACR の診断に有用であるとされ,心筋生検による拒絶のグレードと相関することも報告されている323).

心不全もしくは心機能のマーカーであるBNP もしくはNT-proBNP は,その絶対値と拒絶反応の相関は乏しいものの,個々の患者における値の変動が拒絶反応と相関していることが報告されている324).

さらに海外では,血液検査により,より特異的に拒絶反応を診断する方法も実用化されている.拒絶反応に関連する遺伝子の賦活化を遺伝子発現プロファイリングの手法を用いて検出し,拒絶反応を検出する方法325)や,末梢血中に存在するドナー心由来のDNA(donor-derived cell-free DNA)を検出し心筋傷害を検出する方法326)も活用されている.今後はわが国でもこれらの方法が導入されることを期待したい.

4.2.3 ドナー特異的抗体

AMR の診断にも組織学的検査が重要であるが,確定診断はしばしば困難であり,患者血清中のドナー特異的抗体(donor-specific antibody: DSA)の存在が診断に際して重要な参考所見となる.近年,AMR は急性発症するものから不顕性・慢性に経過するものまで幅広い病態を含んでいると認識されており,顕性のAMR(多くはHLA)クラスI抗原に対するDSA により生じる)では,急速に血行動態の破綻を伴うことが多く,救命のために早期の診断と治療介入が必要である一方,不顕性・慢性に生じたAMR(多くはHLA クラスII 抗原に対するDSA により生じる)は遠隔期のCAV や心機能障害と関連することが示唆されている286). 4.2.4 生理学的検査

心電図変化としては,PR 間隔の延長,R 波の低下,ST変化などが拒絶反応の所見としてみられることがあるが,いずれも特異性に乏しい所見である.これらの所見がみられた際には,心エコーや心筋生検を含めたより詳細な検査を検討する.

心エコー図検査では,早期には左室拡張機能障害や,拒絶反応に合併した心筋間質浮腫の結果として左室壁の肥厚や心筋重量の増加が認められる.病態が進行すれば左室収縮機能障害や心囊液貯留を呈する.特に心筋生検が困難な小児の心臓移植例では,相対的に心エコー図検査の重要性が高くなる.

4.2.5 画像検査

拒絶反応を診断する画像検査として最も広く用いられているのは心臓MRI 検査である.拒絶反応に伴う炎症や浮腫を反映し,T2 強調画像での高シグナルが生じ,線維化を生じればnative T1 値の上昇,extracellular volume の増加や遅延造影像を呈する.また急性拒絶反応に伴う左室壁厚の増加や壁運動低下も検出することができるが,軽度の拒絶反応を検出するには限界がある327).

5 感染症の予防

5.1 移植前の感染症対策

心臓移植後の感染症は,移植後の主要な死亡原因の1 つであり,とりわけ移植後30 日以降1 年以内の死亡原因のなかでは1/3 程度と,死亡原因のなかで最多である.心臓移植後の感染症の特徴として,各時期によって原因となる病原体や発症機序が異なる点があげられる.移植術後30日以内の急性期は,一般の開心術後の合併症としての感染症が主であり,細菌や真菌による手術創部の感染,肺炎,尿路感染が多い.一方で30 日以降は免疫抑制療法に伴う感染症が多いのが特徴であり,内因性の病原体の活性化やドナー由来の病原体による感染症への注意が必要である.特にCMV,EBV,肝炎ウイルスなどが問題になりやすい.免疫抑制下でのこれらの感染症は,初期症状が非特異的で診断が遅れがちであるうえにそれ自体が重篤になりやすいことから,早期診断と治療がきわめて重要である.