p.61 抽出テキスト
2.4.2 使用方法 ISHLT レジストリによれば,近年約50% の症例で導入療法が行われているが,導入療法の有無による移植後の生存率に差は認められず6),ルーチンでの導入療法実施は推奨されていない.わが国では2024 年春現在,抗CD25 モノクローナル抗体製剤であるバシリキシマブは腎移植周術期の導入療法としての投与のみが保険適用となっており,心臓移植を含む他臓器移植への適応拡大に向けた調査研究が進行中である. 心臓移植で抗CD25 抗体による導入療法を行った群と導入療法を行わなかった群を比較した3 つのランダム化比較試験220-222)を含むシステマティックレビューにおけるランダム効果モデルでは,抗CD25 抗体による導入療法がコントロール群と比較し急性拒絶反応のリスクは低下させず,死亡率,感染症や悪性腫瘍の発生に関して有意差は認められなかった223).日本においては適応外使用となることから心臓移植領域におけるバシリキシマブのエビデンスは乏しい.バシリキシマブによる導入療法に関する単施設後ろ向き観察研究では,導入療法によりTac 投与開始を遅らせても急性細胞性拒絶反応はむしろ低い傾向にあり,腎機能障害のあるレシピエントの術後6 ヵ月の腎機能が改善するなど,導入療法群を行わなかった群と比較して非劣性の結果が得られ,一方で細菌・真菌感染の頻度は高いという結果が得られた224). これらの状況から,心臓移植において抗CD25 抗体による導入療法をルーチンで行うことは推奨できないが,腎機能障害を有するレシピエント,ドナー特異的抗体を持つなど拒絶反応のリスクが高いレシピエント,高齢や心機能の低下したマージナルドナーからの移植など,ハイリスクな移植においては抗CD25 抗体による導入療法が有益と考えられ,術後状態が安定するまでCNI 投与の開始を遅らせることで腎機能障害を軽減できると考えられる. また海外からはCNI による副作用を呈した症例に対して抗CD25 抗体製剤を投与してCNI 投与を中止する,といったいわゆる維持療法としてのCD25 抗体製剤使用に関する報告225)もあるが,米国臨床薬理学会・米国移植学会・国際心肺移植学会からは心臓移植を含めた全ての臓器移植において維持療法としての投与は推奨されておらず,他に選択肢のない状況に限定する必要があるとされている226).わが国からは術後早期にTac による可逆性脳血管攣縮症候群(Reversible cerebral vasoconstriction syndrome: RCVS) 227, 228)や血管攣縮性急性腎障害229)を呈した症例に対し,バシリキシマブを投与してTac を一時中断することで改善が得られた症例報告が散見される.このように免疫抑制薬を中断せざるを得ない症例においてバシリキシマブ を一時的な維持療法として検討することは許容されうるものと考えられ,今後のエビデンスの蓄積が必要である. 2.5 mTOR 阻害薬 mTOR 阻害薬は,心臓移植後の免疫抑制療法において, CNI や核酸合成阻害薬(MMF)と併用される.EVL とシロリムス(SRL) (保険未償還)が代表的なmTOR 阻害薬であり,維持期に導入する要因として,CAV の進行,腎機能障害の進行,悪性腫瘍合併などがあげられる(推奨表3,表17). 2.5.1 作用機序 EVL は,細胞質内のイムノフィリンであるFKBP12 と複合体を形成し,その複合体が哺乳類ラパマイシン標的蛋白質(mTOR)に結合することにより,造血細胞(T 細胞, B 細胞),血管平滑筋細胞,酵母などの細胞周期をG1 で停止させる. 2.5.2 mTOR 阻害薬に期待される効果 mTOR 阻害薬では,移植後の拒絶反応予防やCAV の進展抑制に有用性が示されている230-232).EVL1.5 mg 投与, 3.0 mg 投与は,ともにAZP 投与に比べて,急性拒絶反応 の頻度が減少した233).SRL の使用でも急性拒絶反応が減少し,結果的にCAV が減少することが報告されている234).メタ解析でも,mTOR 阻害薬の使用がCAV の相対リスクを61% 減少させることが報告された235).mTOR 推奨表3 mTOR 阻害薬の投与における推奨と エビデンスレベル 推奨クラスエビデンス レベル CAV や腎機能障害の進行予防目的に, mTOR 阻害薬を考慮する. IIa B血中トラフ濃度を使用したmTOR 阻害薬のモニタリングを考慮する. IIa B 表17 mTOR 阻害薬の導入を考慮すべきポイント ● CAV の抑制● CNI による腎機能障害の抑制● CMV 感染症の抑制● 移植後悪性腫瘍の抑制● ほかの薬剤で管理困難な拒絶反応の抑制