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p.56 抽出テキスト

ことが多い.心臓移植直後は拡張障害により1 回心拍出量が減少しているため,十分な心拍出量を維持するために心拍数は90 ~110 bpm に設定することが多い.移植心は除神経されているため,アトロピン硫酸塩水和物は無効であり,薬物治療を行う場合はイソプロテレノールを投与する.術後3 週間以上経過しても徐脈が続く場合は,永久的ペースメーカ挿入術が考慮される162).心房細動,心房粗動,心室頻拍といった頻脈性不整脈もまた心臓移植後にしばしば認められ,拒絶反応やCAV との関連が報告されているため,発症時は早期の心筋生検や冠動脈造影による診断を検討する163).頻脈性不整脈の治療薬として,アミオダロンやカルシウム拮抗薬,β遮断薬は心臓移植後患者に安全に使用できると報告されている164).アミオダロン,カルシウム拮抗薬はCNI との相互作用により血中CNI 濃度が上昇するため注意を要する.

術後腎機能に関して,心臓移植術を受ける患者は重症心不全患者であり,慢性的な低心拍出量,静脈圧上昇,レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系の亢進により塩類と水分の貯留が認められる165).心臓移植術後は心腎症候群や利尿薬抵抗性により体液貯留が起こりやすく,体液管理に難渋することも多い.また,免疫抑制剤であるCNI には腎血管収縮作用があり,術後早期の使用により利尿薬に対する反応性はさらに低下するため注意が必要である143).術前に植込型LVAD などの補助循環を使用していた患者においては,心臓移植術を受ける際の体液量が適正範囲内にあることが多く,慢性心不全患者でみられる腎機能障害は改善していることが多い.右心系のoverload をきたすことなく適切な心拍出量を維持するため,術後の右房圧,中心静脈圧は5 ~12 mmHg の範囲で管理することが望ましい.心臓移植術後は右心不全を呈する場合がしばしば認められ,右房圧は高くなりやすい.右房圧が15 ~20 mmHg以上となると,腎静脈圧が上昇し腎灌流圧は低下する166- 168).尿量が1 mL/kg/ 時に低下した場合は介入が必要である.右房圧が低い場合は輸液による前負荷の適正化を検討する.右房圧が高い場合はまずは利尿薬を使用し,利尿薬抵抗性の場合は限外濾過の開始を検討する169).心臓移植後の急性腎障害(AKI)の発症率は54 ~78% と報告されており,術後AKI は移植後1 年死亡率の上昇と関連する.心臓移植後AKI のリスク因子としては,高齢,長い虚血時間,高いBMI,低い術前eGFR,MCS の使用,高用量カテコラミンの使用などが報告されている170-174).心臓移植術後に無尿,乏尿,術後2 ~4 時間以内の血清クレアチニン値の急激な上昇が認められた場合には,早期の腎代替療法の施行が推奨されている47).術前より腎機能低下の認められる患者や,術後2 日以内に腎機能の増悪が認められる患者には,CNI 投与の開始を遅らせることが推奨されてい

る.術前より腎機能障害の認められる患者や移植後腎機能障害患者に対して,抗CD25 モノクローナル抗体であるバシリキシマブを使用しCNI 投与の開始時期を遅らせる戦略が報告されている175, 176).しかし,わが国において,現時点では心臓移植後のバシリキシマブの使用は保険適用外であることに注意が必要である.

血糖管理に関しては,心臓移植術後は人工心肺の使用や免疫抑制剤としてのステロイドの使用により高血糖となりやすい.術後高血糖は創部感染のリスクを上昇させると報告されており,周術期はインスリンの持続静注による血糖管理を行う.血糖値の目標値は200 mg/dL 以下が推奨されている177).

1.4 感染管理

心臓移植後のsurgical site infection(SSI)の起炎菌としては,コアグラーゼ陰性Staphylococci とStaphylococcus aureus の頻度が高いが,グラム陰性桿菌やCandida によるSSI の報告もみられる178-180).MRSA 検出率の高い施設ではバンコマイシンを追加投与する181, 182).植込型LVADや,体外型LVAD,Impella などのデバイス関連感染症の既往のある患者に対しては,検出された菌をカバーする抗菌薬を選択することが多いが,その根拠は乏しく今後の研究が望まれる.

世界保健機構の発行するSSI 予防ガイドラインにおいて, SSI リスクの低減目的に予防的な局所陰圧閉鎖療法(Negative pressure wound therapy: NPWT)の使用が社会的資源に応じて推奨されており183),日本外科感染症学会においても切開創SSI ハイリスク症例に対するNPWT の使用が推奨されている184).心臓移植を受ける患者は多くが植込型LVAD 装着術後の再手術症例であることや,術後免疫抑制剤を使用することから切開創SSI ハイリスク症例に該当し,予防的NPWT の使用が検討される.

2 免疫抑制療法

心臓移植後における免疫抑制療法は,CNI を基本とし,核酸合成阻害薬やmTOR 阻害薬およびステロイド製剤を加えた3 剤併用療法が一般的である.ステロイドについては時期をみて減量をはかり,可能であれば中止し,その後は2 剤併用療法で管理する(図19).