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p.55 抽出テキスト

Bridge to transplantation 症例が多く,VAD 装着部位や,癒着の剥離面,ドライブライン皮膚貫通部位からの出血にも注意が必要である.術後出血のドレナージが不良となれば心タンポナーデとなり,中心静脈圧の上昇,肺動脈圧の低下および脈圧の狭小化,血圧・心拍出量,混合静脈血酸素飽和度の低下が認められた場合は経胸壁心エコーを行う.心臓手術後は経胸壁心エコーでは診断がつかない場合も多く,必要に応じて経食道心エコー検査やCT により診断する141, 142).心タンポナーデと診断された場合は,直ちに開胸ドレナージ術を施行する.

心臓移植後の心機能は,虚血再灌流障害や心筋浮腫の影響により術後12 時間程度で収縮能,拡張能がともに低下することが多い.ドナー心のLVH(壁厚 ≧ 1.4 cm)や長い虚血時間(> 240 分)は術後早期の拡張障害のリスク因子と報告されている143, 144).術後早期の経僧帽弁血流波形はしばしば拘束性パターンとなる145).これらの拘束性血行動態は一過性であることが多いが,術後6 ~8 週間持続する場合もある146, 147).拡張障害が高度の場合は,中心静脈圧を10 ~14 mmHg 程度に保ち,心外膜リードが留置されている際はペースメーカを使用して心拍数90 ~110 bpm 程度とし,心拍出量を保つ.

術後は人工心肺の使用による炎症反応や,cGMP-NO 経路の調節障害により体血管抵抗が低下するvasoplegia となることが多い.vasoplegia は,通常術後,12 時間程度で改善してくることが多いが,術後長期にわたり遷延する場合もある47).術後,vasoplegia のリスク因子として,高齢レシピエント,長い術前LVAD 使用期間,腎機能障害,長い人工心肺時間,長いドナー心虚血時間などが報告されている148, 149).対処法として灌流圧を維持するために血管収縮薬を使用する.治療薬の第一選択はノルアドレナリンで,次いでバソプレシンを使用する150).これらの薬剤に対し治療抵抗性の場合は,経口ドロキシドパ151)やメチルチオニニウム塩化物水和物(いずれも国内未承認) 152)により有効な灌流圧を維持できたという報告がある.ただし,両薬剤とも人工心肺を用いた体外循環後のvasoplegia に対する国内での保険適用は現時点では得られていない.

術後早期の合併症として,早期グラフト機能不全(primary graft dysfunction: PGD)が重要である.PGD とは,手術手技上の問題や免疫学的機序による超急性期の拒絶反応といった明らかな原因のない場合の重度の移植片機能不全のことで,左心不全,右心不全,両心不全のいずれをも呈する可能性がある.PGD の定義は報告によって異なり,術後24 時間以内に2 種類以上のカテコラミンの投与を要するもの,術後24 時間以内にIABP やVAD などの機械的循環補助(mechanical circulatory support: MCS)を要するものなどがある.そのため,報告されている有病率は

1.4 ~30.7% と幅広くなっている143).PGD は複合的な原

因により生じるが,レシピエント要因として肺高血圧症,高い肺血管抵抗,術前からのMCS の使用,ドナー要因として高齢,長い虚血時間,サイズミスマッチなどがリスク因子として報告されている143).

術後右心不全の診断には肺動脈カテーテルの使用が有用である.平均肺動脈圧が25 mmHg 以上の場合,肺高血圧症と診断されるが,重症右心不全の場合には,平均肺動脈圧はむしろ低下するため注意が必要である153).手術時の肺動脈吻合部狭窄や肺静脈吻合部狭窄が右心不全の原因となる場合もあるため,経胸壁エコー(TTE)や経食道エコー(TEE)を用いて診断する.必要時は手術による狭窄解除を検討する.(肺動脈収縮期圧- 肺動脈拡張期圧)/ 右房圧から計算されるpulmonary artery pulsatility index (PAPi)は右心不全の検出に有用なパラメーターであり,心臓移植前のPAPi < 1.68,心臓移植後のPAPi < 2.37 はPGD と関連すると報告されている154, 155).右心不全時の循環管理としては,右室前負荷の適正化,大動脈圧の維持,右室収縮力の最適化,肺血管抵抗の低下が重要である.大動脈圧を維持することで右冠動脈血流を維持し,右室仕事量を増大させる156).また,大動脈圧を維持することで心室中隔の位置を保ち,右心機能の低下を防ぐことができる157).収縮力の維持のためにはドブタミンやドパミンが用いられる.ミルリノンは心収縮力の増加作用と肺血管抵抗の低下作用を持つため使いやすい.NO 吸入療法は,体血管抵抗を低下させることなく肺血管抵抗を選択的に低下させることができるため使用しやすい143).また,不適切な人工呼吸管理は右室後負荷を上昇させる可能性があるため注意が必要である.最高気道内圧は30 cmH2O 未満とし, Auto-PEEP を避け,肺血管抵抗を上昇させる高二酸化炭素血症,低酸素血症,アシドーシスとならないような呼吸器設定とすることが望ましい143, 158).このような治療に反応しないような重症の右心不全を呈する場合は,遅滞なくMCS を導入することが推奨される.

術後の心拍数は徐脈となる場合もあれば,頻脈となる場合もある.ほとんどの場合は洞調律であるが,ドナー心摘出時の手技や虚血時間により洞不全が認められる場合もある159).心臓移植後は房室伝導障害が10% 程度で認められ, biatrial 法(Lower-Shumway 法)や長い手術時間がリスク因子として報告されている160).他の心臓移植後の徐脈の原因としては,術前からのドナー心の洞不全,術中の洞房結節動脈損傷,拒絶反応,術前からのレシピエントへのアミオダロンの使用などがあげられる161).術後は心房,心室に一時的心外膜リードを留置し,DDD pacing を使用する