p.47 抽出テキスト
左房の切開時は心臓を右側に牽引して左房壁が伸展しているため,切開後には左房壁が短縮して思いのほか少ししか残っていないということがありうるので注意する. 挙上・牽引していた心尖部を心嚢内に戻し,大動脈を遮断鉗子の遠位で切離する.遠位弓部大動脈と頚部分枝で切離し,弓部大動脈まで採取する施設もある.切離した大動脈を遮断鉗子ごと手前に牽引して上行大動脈背側を右肺動脈下縁の高さまで剥離する.この操作で肺動脈幹から右肺動脈が良好に視認できるようになり,肺動脈切開部もよくわかる.肺灌流カニューレを抜去し,抜去した孔が肺動脈幹遠位であれば,この孔から左右に肺動脈幹最遠位で全周性に切開する.または,心臓チームと肺チームの合意があれば,タバコ縫合を結紮してより遠位部で肺動脈を全周性に離断してもよい.肺摘出がある時は左右肺動脈に切り込まないように注意する.肺摘出がない時は左右分岐後の肺動脈を切離する. 上行大動脈と肺動脈幹を手前に牽引し,大血管後面の結合織を尾側に切離していき,残った左房天井を切開する.肺摘出がない時は左房背側の結合織を切離していき,左房をすべて摘出するようにする.上大静脈をできるだけ頭側(結紮部のすぐ心臓側)で切離する.奇静脈がまだ切離されていなければ切離する.これで心臓摘出となる.上大静脈を最後まで切離しないでおいたほうが,上大静脈を損傷するリスクが少ない.上大静脈を先に切離してフリーになっていると,左房切開時に誤って損傷することがある. 2.1.5 摘出心のパッキングと搬送 摘出した心臓をバックテーブルに移し,残っている冷保存液で心臓を洗浄する.上行大動脈は遮断鉗子で遮断したまま切離し,バックテーブルで心臓を冷保存液に浸漬した状態としてから遮断鉗子を外す.見える範囲で心臓の異常の有無(卵円孔開存や弁尖の異常など)を確認する.心臓を滅菌アイソレーションバッグに入れ,心臓が完全に浸る量(500 ~1000 mL)の冷保存液を入れて,空気を十分に抜きながら紐で二重に縛って密封する.氷は入れない.心臓が入ったアイソレーションバッグを,完全に浸る量(500 ~1000 mL)の冷生食もしくは冷乳酸リンゲル液とともにもう1 枚の滅菌アイソレーションバッグに入れ,紐で二重に縛って密封する.氷は入れない.1 重目に入れた臓器と保存液の氷や保冷剤による凍結・低温障害を防ぐために,2 重目のアイソレーションバッグに液体を入れることが重要である.これをもう1 回行って,3 重の滅菌アイソレーションバッグに密封する.3 重の滅菌アイソレーションバッグに密封したものを滅菌金属容器に入れて密封する施設もある.3 重の滅菌アイソレーションバッグまたは密閉式金属容器をクーラーボックスに入れ,周囲に氷または保冷剤 を詰めて位置を安定させてしっかりフタを閉じ,手術室から退室する.手術室退室時には,提供施設の呼吸循環管理医やその他のスタッフ,その他の摘出施設スタッフに対する礼意を伝える.また,提供施設を出発する際には玄関でドナーご家族によるお見送りがあることが多い.ドナーご家族に対する礼意を伝え,JOT のコーディネーターの立会いのもとでご家族にクーラーボックスに触れてもらう.安全かつ迅速な搬送をすることも大切であるが,ドナーご家族にお別れの時間をしっかりとって頂けるように配慮する. 2.2 ドナー心筋保護 ドナーより摘出される心臓は,大動脈遮断後に心保存液を単回投与し,冷却した保存液に浸した状態で搬送する.この心保存液の投与と冷却により,細胞内の嫌気的解糖を抑えアデノシン三リン酸の消費を抑えて細胞壊死を抑制することで,レシピエントに移植され再灌流されるまでの間の心筋保護を行う.摘出時の心保存液の投与方法は本ガイドライン別項(2.2.1 摘出手技)を参照. 2.2.1 薬剤の使用状況・使用成績と推奨 現在国内の心臓移植実施施設では細胞外液型のCelsior液108,109),細胞内液型のUniversity of Wisconsin(UW)液110)が使用されている(2024 年10 月現在).Celsior 液, UW 液の成分を表14 111)に示す.世界的には上記2 剤含め,おもに4 種類の保存液が使用されている.2019 年に報告されたUNOS データベースを用いた大規模レジストリの後向き研究では,心保存液の使用状況は,ほぼ半数がUW液,約4 分の1 がCelsior 液,4 分の1 が改良型Bretschneider であるhistidine-tryptophan-ketoglutarate (HTK)液112)であった113).UW 液,Celsior 液,HTK 液, Saline の比較で,心保存液組成による差は認められないものの,細胞外液型心保護液使用群で1 年生存率がその他の心保存液に比して劣ることが示された113).Pannekoekらによる,RCT 3 編を含む9 編の臨床研究の検討では,比較的短時間の心保存の場合は長期生存率に心保存液の種類による影響は明らかでないが,高カリウム型心筋保護液は各種心保存液に比して不良であり,特に4 時間以上の心保存・心虚血時間を要する例 やハイリスクドナー心の保存についてはUW 液の使用が望ましいと報告されている114).以上の臨床研究の報告からは,比較的短時間の虚血および標準的ドナー心においては心保存液の選択が予後に及ぼす影響は少ないと考えられる.一方,長時間心保護などにおいては細胞内液型UW 液が心保存液としてより理想的で