p.46 抽出テキスト
3 分間待つ間に心保存液回路を術野に準備する.上行大動脈に心保存液灌流用針を刺入して固定する.ヘパリン加血の採血で必要な分をこのカニューレから採血した後に心保存液回路とカニューレを接続する.肺チームと交代し,肺チームが肺動脈幹の糸をかけておいた場所に肺灌流カニューレを挿入し,肺灌流液回路と接続する. 心臓チームと再び交代し,上大静脈内の中心静脈カテーテルを触知して先端の位置を確認しながら,中心静脈カテーテルを呼吸循環管理医に浅めに引き抜いてもらい,右腕頭静脈内まで先端が引き抜かれたところでテープ固定し直してもらう.または,中心静脈カテーテルをそのままの位置に留置しておき,後の上大静脈結紮の直前に抜去してもよい.腹部から下大静脈にカニュレーションして脱血する場合は,腹部から下大静脈に挿入した脱血管を心囊内で触知しないか確認する.もし触知した場合は,先端が横隔膜下になるまで引き抜いてもらう.ここから先の操作では血圧が急降下していき,手を止めず流れるように大動脈遮断・灌流液投与まで進めていく必要があるため,ここで灌流液投与までの手順について呼吸循環管理医を含めた全員と再確認してから行うとよい.これらの手順の数分後には大動脈遮断となって臓器の虚血時間が始まるため,予定時刻より早く進める場合には各臓器担当医の合意を得る必要がある.予定時刻まで待つこともある.肺提供がある場合,肺チームによっては肺動脈幹に針付シリンジでプロスタグランジンE1 500μg を注入する.数心拍で血圧は必ず著しく低下してくるが,このまま大動脈遮断に向かうので血圧低下に対しては特に処置は行わない. 上大静脈頭側に回していた2 号絹糸をできるだけ頭側で結紮する.肺摘出がある場合は,気管支離断直前まで換気を続けてもらう.肝臓チームと一緒に確認しながら,下大静脈を横隔膜から掘り起こした部位で長い鉗子を用いて遮断し,下大静脈・右房接合部の前方を半周性に切開する.腹部臓器摘出がある場合で,あらかじめ合意の下に腹部から下大静脈に脱血管を入れない時は,肺チームも合意の上,右開胸として血液が可能な限り胸腔内に流れ込むようにする.右開胸としたうえで,下大静脈の遮断はせずに下大静脈・右房接合部前方を半周性に切開し,ここに吸引管を置いて静脈血をしっかりと吸引する.下大静脈・右房接合部の切開時には完全に離断せず,前方半周だけ切開する. 上行大動脈を遮断する.ここまでで十分に血圧は下がっているため,そのまま上行大動脈最遠位の腕頭動脈分岐直前で大動脈を遮断する.肺動脈幹にプロスタグランジンE1 注入を行っていない場合は,血圧が十分に下がっていないことがあるため,十分に血圧が下がったことを確認してから大動脈を遮断する.後に左心耳切開をする場合は,大動脈遮断前に左心耳をサティンスキー鉗子などで把持し ておく.心保存液を投与開始する.最もよく使われているCelsior 液では30 mL/kg を60 ~80 mmHg の灌流圧で投与する.大動脈遮断が十分になされていて,心保存液注入により大動脈基部がある程度張っていることを確認する.心保存液投与開始後すぐに,肺摘出がある場合は左心耳切開もしくは左房下面切開で,肺摘出がない時は右上肺静脈切開で,左心系の減圧・ドレナージを開始し,左心系が減圧されているのを確認してから,肺摘出がある場合は肺灌流液の投与を開始する.肺摘出がある場合でも左心耳切開をしない施設があり,その場合は左房下面切開でドレナージする.心臓の過伸展と肺の鬱血を防ぐために,胸部だけで2 系統の吸引を用いる.1 系統は切開した左心耳から左房内に吸引管をやさしく挿入して吸引・減圧し,もう1 つは下大静脈・右房接合部の切開部や心囊・胸腔を吸引する.心保存液・肺灌流液投与中はアイススラッシュを心囊内に入れて心筋温を下げるようにする.心筋の低温障害や心保存液の末梢灌流不良を危惧してアイススラッシュを使わない施設もある. 2.1.4 実際の心臓採取手順(大動脈遮断から心臓摘出まで) 心保存液と肺灌流液の投与がすべて終わるのを待ってから心臓摘出を開始する.まず,下大静脈・右房接合部の残っている後方半周を切離する.心尖部を頭側に挙上し,左右の下肺静脈と左房下壁を確認する.左房下壁に尖刃刀で切開を入れ,ここからメッツェン剪刀で左房切開を行う.肺摘出がある時は,肺側に左房カフが残っていなければならないため,左房切開ラインは肺チームと一緒に確認しながら慎重に行う.メッツェン剪刀の向きが肺静脈側に向かないよう注意する.肺摘出がない時は左房切開せず,上下左右肺静脈を切離して左房をすべて摘出する.左房下壁の切開部から右側は,下大静脈・右房接合部切離口の背側に切開を進め,下大静脈・右房接合部切離口を越えるところで,あらかじめ剥離してあった心房間溝を頭側に切開していく.上大静脈の背側で左房天井側へ少し切開を進める.心房間溝剥離部内で切開していけば,右肺静脈の左房カフは確保できる. 左房下壁の切開部から左側は,肺静脈・左房接合部から5 mm ほど左房壁を肺静脈側に残したラインで切開していく.左上肺静脈と左心耳の間は左房壁の幅が狭いことがあり,肺静脈側にも心臓側(左心耳側)にも左房壁が残るように慎重に切開していく.左上肺静脈を越えて左房天井は心臓側に十分に左房壁が残るように肺動脈幹背側で左心耳背側の左房壁を切開していく.この段階で左右からの左房切開線がつながらずに左房天井が残っていてもよい.左側