p.40 抽出テキスト
の血管運動中枢機能喪失,脳浮腫に対する浸透圧利尿薬や尿崩症による循環血液量低下などにより血圧低下,心収縮機能低下,徐脈が生じる79). 脳死に至ると,中枢性交感神経遮断による末梢血管抵抗低下と下垂体後葉機能喪失による中枢性尿崩症が生じる.中枢性尿崩症は脳死に関連する内分泌障害の初期徴候であり,脳死ドナーの46 ~86% で報告されている81).海外のドナー管理に関するガイドラインでは,臓器への血液灌流維持のために循環血液量維持および是正の重要性が強調されている82-84).多尿や高浸透圧,高ナトリウム血症などが認められたら,高血糖や浸透圧利尿薬など他の原因を除外したうえで中枢性尿崩症の診断・治療を行うことが重要である. 脳死はコルチゾールや甲状腺ホルモンなどの血中濃度低下の原因となるが,多くの場合下垂体前葉から分泌される甲状腺刺激ホルモンや副腎皮質刺激ホルモンは完全には枯渇しない85, 86).甲状腺ホルモン補充療法の有用性については観察研究がほとんどで前向きランダム化試験では実証されておらず87),海外のガイドラインでも血行動態が不安定なドナーの管理に考慮される可能性があるものの,有効性は不明との表現にとどまっている82).脳死ドナー管理におけるステロイド治療は血行動態安定や炎症改善のために考慮され79),低用量のヒドロコルチゾン投与の有用性が示唆されている88, 90). 1.3 メディカルコンサルタントの役割 日本では,ドナー発生後に移植実施施設から評価チームを派遣しドナー評価を行い,必要時にはドナー管理も行う独自のシステムが確立されてきた.そのなかで,2002 年11 月より,メディカルコンサルタント制度が開始された.メディカルコンサルタントは第1 回法的脳死判定以降に臓器提供病院に派遣され,ドナー評価を行った後,第2 回法的脳死判定以降からは提供病院のドナー管理を支援する90).以下,具体的にその役割を示す. メディカルコンサルタント派遣後,まずドナーの病歴から脳死に至った経緯,心停止の有無(心肺蘇生までに要した時間,蘇生法),評価時点のカテコラミン・抗利尿ホルモンの使用の有無(投与量とその使用量の変化)を確認する.次に2 次評価まで施行されてきた検査データを確認する.ドナー候補者となった初回の検査からメディカルコンサルタントが介入されるまで期間が空いている場合もあるため,必要時には検査(心電図,採血,培養検査など)を追加する必要がある.胸部レントゲン検査では心拡大,胸水,胸部臓器損傷の有無を確認する.心停止がある場合,虚血性の心電図変化がある場合が多いため,回復傾向と梗塞の所 見がないことを確認することが重要である.虚血性心疾患や遺伝性心疾患の有無に関しては生活歴や家族歴から推測できることもある. 検査結果や病歴などを確認した後,心臓超音波検査を行い(施設により使用している超音波機器が異なる場合もあるため,提供施設の循環器内科医もしくは検査技師に依頼する場合もある)心機能の評価を行う.超音波検査を行う前にCT(必ずしも造影でなくてもよい)で大動脈の石灰化,拡大の有無,冠動脈,弁尖の石灰化について情報を確認することが望ましい.60 歳を超える高齢のドナーにおいては悪性腫瘍の合併も考えられるため,心臓だけでなく肺野や腹部臓器に関してもCT での確認が必要である.心臓超音波検査では心機能(房室弁逆流,心室壁運動,LVEF,心室容積,心室重量を計測)を評価し,ドナーチャートに記載する.動脈硬化リスクが高いケース,冠動脈病変が疑われるケースでは,冠動脈CT や冠動脈造影などによる積極的な冠動脈評価が望ましい.ドナーチャートの全体評価にはドナー心について評価し,メディカルコンサルタントとしての意見を記載する. 基本的にドナーの全身管理は提供病院の担当医が臓器提供に向けて行うが,メディカルコンサルタント介入後はその管理において必要時,メディカルコンサルタントと担当医が相談し管理を行う.すなわち,ドナーの合併疾患の治療に加え,脳死に伴う循環生理学的変化に合わせた電解質,血糖を含めた水分バランス管理,循環・呼吸管理,体温管理,感染予防などの観点からメディカルコンサルタントが必要と考える場合,薬剤調整をメディカルコンサルタントから依頼することもある91). 脳死判定と並行して,JOT あっせん対応本部ではレシピエント選択基準に基づいてプログラムされた移植登録者検索システムで移植待機者の検索を行う.法的脳死判定終了後に移植施設経由でレシピエント候補者の意思確認を行う27).レシピエントが選定され,移植施設に連絡が入る.その際,移植施設よりメディカルコンサルタントに対しJOT を経由してドナーの状態について直接連絡を取り,情報を得ることも可能である. 1.4 ドナー管理の要点 脳死ドナーの管理において,移植に適した良質の臓器を提供するためには,循環動態の安定化と臓器機能の維持が重要である91, 92).脳死では,交感神経系の過剰な活性化と血管拡張により循環動態が不安定化する.脳死特有の生理学的変化を念頭に,血管内脱水を避け,臓器の灌流を保ち,