p.39 抽出テキスト
第4章 心臓移植手術の実際 1 脳死からの臓器提供 1.1 法的脳死判定 前述(1 章3. 心臓移植に関わる法律を参照)のように,脳死下臓器提供の前提となる法的脳死判定は,臓器移植法第6 条第3 項で,1本人が臓器提供の意思を書面により表示し,かつ脳死判定を拒否する意思を表示せず,本人の家族が脳死判定を拒まない場合,2本人が臓器提供の意思を書面により表示しておらず,かつ脳死判定を拒否する意思を表示せず,本人の家族が脳死判定の実施を承諾した場合,のいずれかに該当すれば行うことができ,2 回目の脳死判定終了時刻を死亡時刻とすると定められている. 1.1.1 脳死下臓器提供の施設条件 脳死下臓器提供施設は,指針17)において,下記のいずれの条件をも満たす施設に限定されている. 1 臓器摘出の場を提供する等のために必要な体制が確保 されており,当該施設全体について,脳死した者の身体からの臓器摘出を行うことに関して合意が得られていること.なお,その際,施設内の倫理委員会等の委員会で臓器提供に関して承認が行われていること. 2 適正な脳死判定を行う体制があること. 3 救急医療等の関連分野において,高度の医療を行う施 設(いわゆる5 類型施設)であること.さらに,18 歳未満の児童からの臓器提供を行う施設に必要な体制としては,虐待防止委員会などの院内体制が整備され,児童虐待対応のマニュアル等の整備を満たしていることと定められている. 1.1.2 脳死判定医の資格要件 脳死判定は,脳神経外科医,神経内科医,救急医,麻酔・蘇生科・集中治療医または小児科医の学会専門医,あるいは学会認定医の資格を持った医師が2 人以上で行う. 1.1.3 脳死とされうる状態の判断 指針において,主治医などは,患者の状態について,脳死とされうる状態にあると判断した場合に,臓器提供の機会があることを告げることとなっている. 脳死とされうる状態とは,脳の器質的な障害により深昏睡および自発呼吸を消失した状態と認められ,かつ,原疾患が確実に診断されていて,回復の可能性がないと認められる者について,深昏睡,瞳孔固定・散大,脳幹反射の消失,平坦脳波,自発呼吸の消失が確認された場合と定められている. 1.1.4 法的脳死判定の実施 脳死判定医は,前提条件を満たしていること,除外例に該当しないことを確認してから法的脳死判定を開始する.法的脳死判定は,生命徴候,深昏睡,瞳孔散大・固定,脳幹反射消失(対光反射,角膜反射,毛様脊髄反射,眼球頭反射,前庭反射,咽頭反射,咳反射),平坦脳波,自発呼吸の消失を確認する.第1 回法的脳死判定の終了時点から6 歳以上では6 時間以上,6 歳未満では24 時間以上が経過した時点で,第2 回法的脳死判定を開始する.第2 回の判定終了時刻を死亡時刻とする. 1.2 脳死状態における循環生理 脳死後の血行動態不安定性はドナー管理において重要な課題であり,適切な循環状態を維持することがドナー臓器保護にもつながる. 脳損傷が進行し,頭蓋内圧が上昇して脳灌流が障害されるようになると,急激なカテコラミン血中濃度上昇が起こり(交感神経ストーム; sympathetic storm/autonomic storm),動脈圧および心臓後負荷の上昇,内皮損傷,心筋酸素消費量増加などを引き起こし78),心筋細胞傷害,不整脈,心筋虚血などをきたす79, 80).この交感神経ストームは肺胞上皮損傷,肺毛細血管透過性亢進もきたし,陽圧換気による肺傷害も惹起する.続いて圧受容体の活性化や脳幹