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p.16 抽出テキスト

傷害致死・過失致死(刑法199 条・205 条・210 条・211条),死亡しなかったときには障害・過失傷害(刑法204条・209 条1 項・211 条)の問題が発生する.死体から臓器の提供を受ける場合,死体損壊(刑法190 条)の問題が発生する.生体移植は提供者に大きな犠牲を払うものであり多くの倫理的な問題をはらんでいることから,臓器移植は原則として死体移植であるべきと考えられている16, 17).

2.2 臓器移植法における死の考え方

臓器の移植に関する法律(以下,臓器移植法)は死体について「脳死した者の身体を含む」(臓器移植法第6 条1項)と規定している.脳死以外の死について臓器移植法の中では触れられていないものの,伝統的な死の概念である「心肺死」に脳死を加えた米国の「死の決定に関する統一法」18a)と同じ考え方をしていると理解されている.

臓器移植法は統一法と同じく脳死を「脳幹を含む全脳の機能が不可逆的に停止している状態」(第6 条第2 項)と定義している.「心肺死」に関する定義は記載されていないものの,統一法と同じく「循環・呼吸機能の不可逆的な停止」と考えられていると推測される.

2.3 心臓移植の位置づけ

1967 年にBarnard は心臓死のドナーから移植用心臓を摘出したと発表した3).1968 年に和田寿郎は心臓死した者から心臓を摘出して心臓移植を行ったと記載している19).しかしながら,摘出した心臓がレシピエントのなかで機能したということは,ドナーの体内にあった心臓は「不可逆的に」停止していたとは言えず,「心臓死」や「心肺死」は訪れていなかったと考えられる.すなわち,ドナーは生きていたことになってしまう.

心臓移植が死体から行われることを明白に定義するために,1968 年にハーバード大学の特別委員会は脳死判定基準を発表し20),それ以降は,心臓移植は脳死体から行われるようになった.日本において移植医療の適正な実施に資することを目的として,脳死を人の死として含める臓器移植法が1997 年に成立した.

2.4 臓器提供の意思表示

生体移植においては提供者が臓器の処分権をもち,その承諾がなければ臓器を摘出することができない.承諾とは摘出に対して積極的に同意すること(Opt-In)を意味しており,反対していないこと(Opt-Out がない)だけでは不足である.

一方で,心臓移植が可能な脳死体からの臓器提供では臓器提供者のこのような意思表示の確認が難しいために,さまざまな問題をはらむことになる.死体を処分する権限を死者(その生前の意思)・遺族のいずれに認めるのか,また,その承諾はOpt-In/Opt-Out いずれの方式を用いるのかについて,国によって立法例が分かれている.欧州評議会決議は本人または遺族のOpt-Out がなければ死体から臓器を摘出できると表明している21).一方で,米国統一州法委員会の改正死体提供法は,本人または遺族のOpt-In を要求しており,Opt-Out がないことだけでは不十分であるとしている18b).

2.5 わが国における臓器移植法

改正前のわが国の臓器移植法は,脳死体から臓器提供を受ける場合,本人の書面によるOpt-In を必須として,さらに遺族のOpt-Out がないことが要求されていたため,脳死心臓移植はほとんど不可能な状態にあった.改正臓器移植法によって,本人のOpt-In/Opt-Out がない場合は,遺族のOpt-In だけで臓器提供が可能になった.本人のOpt-Inがあった場合でも,遺族がOpt-Out した場合は臓器提供を行うことができない.

内閣府が2021 年度に行った世論調査によると,健康保険証や運転免許証の裏面に臓器適用の意思表示欄が存在することを知っている人はそれぞれ60% を超えていた22).その一方,実際に意思表示をしている人は6.7% に留まっており,家族が死後の臓器提供について意思表示をしていなかった場合に,臓器提供の承諾をすることに負担を感じる人の割合は85.6% であった.家族や親しい人と臓器提供について話し合いをしたことがないと答えた人の割合は56.2% であり,臓器提供の意思表示や家族との対話の重要性を今後益々周知していくことが重要であろう.

3 心臓移植に関わる法律

3.1 「臓器の移植に関する法律」の

施行と改正

わが国における心臓移植は,「臓器の移植に関する法律」23)(以下,臓器移植法),施行規則,運用に関する指針17)(以下,指針)に則って実施されている.1997 年10