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p.112 抽出テキスト

第10章 今後の課題

1 DCD の可能性612-618)

わが国における心臓移植医療は,重症心不全治療の一環として確立され,心臓移植候補の選定,心臓移植ドナーの出現からドナー心摘出までの手順,摘出手術,ドナー心の運搬,心臓移植実施施設での移植手技,移植後の術後管理,免疫抑制剤の管理,その後の社会復帰のプロトコールは各施設で体系化され,粛々と移植医療が行われているのが現状である.

現在の心臓移植医療の大きな妨げとなっているものは,心臓移植のドナー不足である.わが国の臓器移植は,2010年の法改正後ドナー数の増加もあり,心臓移植の件数は増加したが,心臓移植待機患者数も年々増加しており,相対的にドナー不足は全く解消されておらず,深刻な問題である.しかし2023 年には,その前年と比較すると顕著にドナーが増加し,心臓移植の実施件数もはじめて100 例を超え,今後さらなる提供数の増加に期待がもたれる.

海外でもドナー不足は深刻な問題であり,その対策の1つとして脳死後臓器提供(donation after brain death: DBD)に加えて,DCD による心臓移植を積極的に導入し,ドナー数の確保に努めている国も多数ある(図41).わが国でもDCD からの臓器移植は,腎臓,角膜,膵臓で行われているが,DBD の増加に反して,DCD 提供数は,2010年の改正後,むしろ減少の一途である.海外では,スペイン,英国,米国を中心にDCD の件数を伸ばしている.

DCD のドナーは,計画的生命維持治療の中止(withdrawal of life support therapy: WLST)を伴うcontrolled DCD(cDCD) (modified Maastricht classification III)が主体である.このcDCD では心停止による温阻血時間が不可避であるため,心臓移植を成功させるためには,その過程で機械的体外灌流(ex vivo Machine Perfusion: EVMP)による移植前の心拍の再開と評価が必要である.心臓摘出と評価の方法は,2 種類あり,DPP(Direct procurement and perfusion)とNRP(normothermic regional perfu- sion)である(図42).

DPP は,手術開始し開胸後に速やかに心筋保護液を注入し,心臓採取を行い,EVMP(Transmedics 社[米国]のOrgan Care System がおもに使用されている)を装着し,心拍動を再開させ,心機能の評価を行い移植の可否を決めるものである.

NRP は心停止後に脳循環を遮断したうえでVA-ECMOを導入し,心拍動が戻るのを確認し,移植心としての使用の可否を評価,心臓採取を行う.その後の保存・搬送方法は通常通りの氷冷保存法や,近年では虚血時間の短縮を目的に前述のOrgan Care System やXVIVO 社(スウェーデン)が提供するXVIVO Heart Assist Transport TM を使用した持続冠灌流法が試みられている.

DCD 心臓移植の成績に関しては,2023 年のNew England Journal of Medicine でも報告されているが,6 ヵ月後の生存率においては,DBD とDCD の差はないとされている.そのほかの報告でもDCD が劣っているとの報告

図41 DCD のふたつの形態Uncontrolled DCD(左図)とは,予期せぬ心停止や到着時心停止の状態を指す.おもに救急外来でみられる. Controlled DCD(右図)とは,脳死判定には合致しないが,不可逆的で致命的な脳障害を負った患者において家族の同意のもと,計画的に生命維持治療を中止し,予測時間内(通常は30 分以内)に起こる循環停止を指す.おもに集中治療室でみられる.

おもな実施場所

●	 到着時心停止●	 予想外の心停止

集中治療室救急外来

Uncontrolled DCD Controlled DCD

●	 計画された治療の中止●	 予測時間内(通常30 分以内)の心停止