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p.110 抽出テキスト

1.2 改正臓器移植法施行後の普及啓発601)

2010 年7 月17 日に改正臓器移植法が施行され,本人の意思が不明な場合にも家族の承諾があれば脳死下の臓器提供ができるようになった.このことにより,15 歳未満であっても脳死下の臓器提供が可能となり,小児の移植の道が開かれた.よって,法改正後は,家族が臓器提供について判断するときに迷いや不安のないように,本人の意思表示促進や家族間の話し合いの重要性を啓発することを重要視している.

意思表示は,「臓器を提供する」という意思だけではなく,「臓器を提供しない」という意思も表示でき,どちらの意思も尊重される.提供する意思の表示は,民法上の遺言可能年齢である15 歳以上が有効であるが,提供しない意思は何歳からでも有効である.そのほか,提供したくない臓器の選択や特記欄には組織提供や親族優先提供の希望などを記入することができる.また表示した意思はいつでも何度でも変更可能である.基本的に本人の意思が尊重されるが,最終的には家族の承諾がなければ臓器提供は行われない.

現在の臓器提供の意思表示方法としてはおもに3 種類ある.1マイナンバーカード,運転免許証の意思表示欄への記入,2インターネットによる意思登録,3臓器提供意思表示カードに記入,である(図40) 602).そのほか,JOTを中心に各種リーフレットの配布,ポスターの掲示,インターネットやテレビ,交通での広告,市民向け講演会などを通じて広く国民へ意思表示を促す取り組みがなされている.特に,毎年10 月は臓器移植普及推進月間で,国や地方自治体と連携をとりながら,臓器移植推進国民大会の開催や,移植医療のシンボルであるグリーンリボンのキャン

ペーン実施などにより,多くの人たちに臓器移植について理解を深める普及啓発を行っている.

さらに,子供のころからいのちの大切さや臓器移植を正しく理解してもらえるよう,幼少期から高校,また大学での教育,さらに社会人向けには理解と関心を深めるための取り組みを行っている.昨今は,中学校道徳の教科書にも生命の尊さをテーマに,臓器移植に関する内容が掲載されている603).

さまざな普及啓発活動がなされているものの,2021 年の内閣府「移植医療に関する世論調査」22)によると,臓器を提供したい人の割合は約40% であるのに対して,意思表示を行っている割合は約10%と依然として低い結果であった.

臓器移植について,臓器を「提供する」「提供しない」,あるいは臓器移植を「受ける」「受けない」といった個々の意思が適切に示され,その意思が尊重され,提供される臓器が移植で救える命に適正につなげられる社会を構築するための普及啓発が,より一層必要であろう.

2 患者の社会への受け入れ

2.1 社会復帰

心臓移植は心臓を提供してくれるドナーの存在があってはじめて成り立つ医療であり,ドナーやその家族が協力してくれたことへの感謝の念を忘れてはならない.心臓移植によって重症だった心臓は,レシピエント(患者)心から移植心へと入れ替わることで,心機能や身体能力は劇的に改善する.それゆえに,心臓移植後は,積極的な社会復帰,社会貢献を患者に期待したいが,実際には約6 ~7 割程度の患者しか移植後の社会復帰が達成されていないのが実状であり,ほかの臓器移植後の成績とは大きな乖離がある604).

その背景には,ほとんどの患者は心臓移植を受ける前から長期に渡り重症心不全に罹患しているため,運動能力の低下や臓器障害が進行しており,満足な就労活動が行えていないことが多くある.一般的には移植後数ヵ月から半年以降には就労可能とされている.しかしながら,心機能は移植によって劇的に改善しているものの,運動能力の低下や移植前から長期間離職していたことによる自信の喪失は,

かならずしも移植後に改善するとはいえない.また高齢化の図40 臓器提供の意思表示の方法

(公益社団法人 日本臓器移植ネットワーク602)より)