p.104 抽出テキスト
先天性心疾患症例では複数回の姑息術や根治術(Norwood 手術,Fontan 手術,Mustard/Senning 手術など)を受けた後の心不全症例が多く,解剖学的特徴に加えて,移植前に受けた手術術式に応じた対応が必要である. Fontan 手術後では,上大静脈を肺動脈から切離した後,多くの場合左右肺門部まで広範な肺動脈形成を必要とする585).肺動脈形成の素材として,欧米ではホモグラフトパッチが一般的であるが,わが国では入手困難なため,異種心膜やPTFE パッチなどが用いられる.ドナーの大動脈などを使用することも可能であるが,心筋虚血時間に留意する必要がある.もっとも工夫を要するのが,situs inversus のように大静脈関係が交錯しているものであり,いくつかの方法が報告されている.ドナーの無名静脈を利用して左上大静脈との吻合を行い,左下大静脈はそのまま吻合する比較的シンプルな方法586),ドナー心を右側に回転させて縫合する方法587),などいくつかの方法が報告されている. 5 周術期管理 小児に対する心臓移植の特徴としては,巨大心を移植した場合の管理,先天性心疾患に対する移植後の管理があげられる.また,小児特有の免疫抑制剤の使用法と拒絶の診断における工夫について要点を述べる. 5.1 巨大心を移植した場合の管理 小児の心臓移植においては,レシピエントの体重に対してドナーの体重が3 倍程度までのミスマッチは許容される584).また,レシピエントが肺高血圧を合併している場合は,むしろドナー心臓が大きいことが望ましいといわれている588).一般的に,レシピエントの不全心は体重に比して大きく,心囊内のスペースも拡大しているため,サイズミスマッチがあっても比較的余裕がある場合が多い.しかし,再手術症例などで人工心肺時間が長く,浮腫をきたした場合などは,心臓が心囊内におさまらない場合もある.このような場合は,一期的に胸骨を閉鎖せず,浮腫が改善するまで胸骨開放のまま管理し,二期的な胸骨閉鎖を行う.術後管理上は,心拍出量増大に伴う高血圧が問題となる.術後の高用量ステロイドの副作用と合わせ,術後の高血圧が顕著となる場合があるため積極的な降圧治療が必要になる.移植術後急性期には亜硝酸薬,カルシウム拮抗薬やhANP などの持続点滴治療を用いて降圧を行い,経口投与への移行後には,ACE 阻害薬やARB などの追加治療が 必要となることもある.術後数ヵ月間にわたり頭痛を訴える症例もあり,その場合には,ほかの病態との鑑別を要する.CNI の副作用としてPRES という病態があり,頭痛・視覚障害・意識変容・けいれん発作などを呈する.CNI の容量過多やそれに伴う血圧上昇,腎機能障害などがPRESのリスクとなるため巨大心移植後の高血圧との鑑別が必要となる. 5.2 先天性心疾患における移植後の管理 先天性心疾患に対する移植の場合,これまでに複数回にわたり開心術を繰り返してきたことに起因するさまざまな問題を想定しておく必要がある.高度の癒着,側副血行路,主要な血管の狭窄・閉塞および長年の姑息的な血行動態などがあげられる.その結果,移植術に際しては,その剥離,出血に十分注意し,また,径の異なる血管吻合などを適切に行わなければならない589).また,不良な血行動態の他臓器への影響も術後管理に反映させなければならない.特に長年にわたり使用された利尿剤や,高い中心静脈圧は,腎臓や肝臓の機能に潜在的に影響を与えている.術後の使用薬剤の特性をよく考え配慮すべきである. 5.3 免疫抑制剤の使用法と拒絶診断における 工夫 小児は腎機能が未熟であるので,抗IL-2 受容体抗体(バシリキシマブ)を使用して,早期にCNI の投与量を減量することが望ましい.しかし,現時点ではバシリキシマブの心臓移植に対する保険適用はなく,各施設の判断でofflabel での使用がなされている.成人・小児ともに心臓移植への適用拡大へ向けた取り組みが始まっている.小児においては成長を考慮して,6 ヵ月以内にステロイドを中止する590).成人では心筋生検が標準的検査法であるが,小児例では心筋生検の合併症を避けるために,非侵襲的な診断法を重要視している施設が多い.非侵襲的な検査法として,心臓超音波検査がもっとも重要視され591),左室壁厚,拡張期時間,LVEF,僧帽弁逆流,心嚢液貯留などをスコア化し,移植後経日的に測定してスコアに変化があれば拒絶反応と診断する.近年では,左室の心臓超音波検査所見のみならず,FAC(右室面積変化率)やTAPSE(三尖弁輪収縮期移動距離)といった右室機能の指標と急性細胞性拒絶の関連性に注目されており,経時的な評価が早期診断につながるものと考えられている592).