p.51 抽出テキスト
小児期心筋炎の正確な発生率は明らかではないが,北米では0.8人/人口10万人,わが国では0.3人/人口10万人,もしくは0.26人/人口10万人と推定されている153, 154).また,突然死したスポーツ選手の最大8%,小児~若年成人の剖検例の0.6~1.8%程度が心筋炎との報告などもある155, 156). ちなみに,わが国の「心筋症診療ガイドライン(2018年改訂版)」では,特発性心筋症と二次性心筋症は可能な限り鑑別することを重要視した分類となっている157). 3.1 肥大型心筋症(HCM) 157-161) 3.1.1 概念 肥大型心筋症(HCM)は,著明な心筋肥大により心室内腔が狭小化し,拡張障害をきたす疾患である.非対称性中隔肥厚が特徴で,左室流出路狭窄(閉塞性肥大型心筋症)をきたす場合がある.息切れや胸痛,失神や突然死といったさまざまな症状を呈する.しばしば家族性に発症し,常染色体顕性(優性)遺伝形式をとる.肥大型心筋症は若年者の心臓突然死のもっとも重要な原因であり,とくに運動中の突然死をきたす. 3.1.2 1次検診で留意すべき項目 1次検診で留意すべき項目を以下に示す. (1) II,III,aVF,左胸部誘導の深いQ波(2) V5,6の高いR波+V1の深いS波(左室肥大所見) (3) 心室中隔の肥厚が高度になると左室自由壁の起電力 が減弱し(poor R wave progression),逆に右室肥大所見を呈する. (4) 左胸部誘導の平坦~陰性T波,巨大陰性T波(5) 肺性P波や僧帽P波(6) 心尖部肥大型心筋症では左側胸部誘導巨大陰性T波(7) 期外収縮,VT,心房細動(AF),WPW症候群を認 めることがある. (8) 動悸や呼吸困難,胸痛,運動時の失神はかならず抽 出する. (9) 肥大型心筋症や若年突然死の家族歴 3.1.3 2次以降の検診で必要な診察・検査項目 2次以降の検診では,問診,聴診,12誘導心電図,心エコーを行う. 3.1.4 2次以降の検診で専門医紹介を必要とする所見 前出の3.1.2「1次検診で留意すべき項目」にあてはまる心電図所見がある場合は,2次検診の心エコーによって肥大型心筋症の多くが診断可能である.肥大型心筋症と診断 されれば,すべて専門医に紹介されるべきである. 肥大型心筋症の心エコー所見としては,以下があげられる. (1) 左室心筋の肥厚(2) 心室中隔の肥大[非対称性中隔肥厚(ASH)] (3) 左室流出路狭窄(4) 僧帽弁尖の収縮期前方運動(SAM) 3.1.5 管理指導区分決定のための取扱い 肥大型心筋症のリスク評価に必要な検査は,次のとおりである. (1) 家族歴の聴取(若年突然死,心筋疾患) (2) 失神(とくに運動中),けいれん,胸痛,心停止ある いは持続性VTの既往歴(3) 心エコー(4) ホルター心電図(5) 運動負荷試験(6) 心臓MRI (7) 遺伝学的検査 3.1.6 管理指導区分の条件と観察間隔 管理指導区分の条件と観察間隔は以下のとおりである. (1) 突然死のほとんどは運動中であるため,運動制限を 行う. (2) 無症状例: D(観察間隔: 6ヵ月) (3) 胸痛や失神などの症状がある例および閉塞型の患児: BまたはC(観察間隔: 1ヵ月) (4) 高リスク児: ほとんどの運動やスポーツ競技を禁止 し,定期的なフォローが重要である.A,Bまたは C (観察間隔: 1ヵ月) 3.2 拡張型心筋症(DCM) 157-159, 162) 3.2.1 概念 心筋収縮不全により心拡大をきたし,心不全が進行する予後不良の疾患である.小児期ではいずれの年齢においても認められ,5年生存率は50%と不良である.小児期の発症原因としては,心筋炎後が約40%ともっとも多い.小児期発症の場合には,二次性心筋症に含まれるカルニチン欠乏や,脂肪酸,アミノ酸,有機酸などの代謝異常,ミトコンドリア異常,神経筋疾患などの頻度が成人よりも高い.