p.39 抽出テキスト
2 遺伝性不整脈の管理 2.1 先天性 QT 延長症候群 2.1.1 概念 先天性QT延長症候群(LQTS)は,心電図上のQT間隔の延長やT波形異常を特徴とし,トルサードドポアント(TdP)と呼ばれる多形性VTやVFを生じて失神や突然死を起こす遺伝性疾患である.おもな原因は,心筋細胞活動電位に関連したイオンチャネルをコードする遺伝子の変異である.表現型として,LQTSの頻度は,日本の乳児1ヵ月健診では約1,100人に1人89),小中学生の学校心臓検診では約1000~3000人に1人と推定される10, 90).一方,遺伝型陽性LQTS例の頻度は,イタリアの研究では新生児約2,500人に1人であった91). LQTSでは17以上の遺伝型が知られているが,現在明らかな原因遺伝子とされるのはKCNQ1,KCNH2, SCN5AとCALM1~3 である.また,TRDN,KCNE1, KCNJ2,CACNA1Cも疾患に関係する遺伝子と考えられる92).遺伝学的検査で判明する病的(または病的の可能性)バリアントの90%がKCNQ1,KCNH2,SCN5A(LQT1型,2型,3型の原因遺伝子)である.それ以外では, KCNJ2[Andersen-Tawil 症候群(ATS): LQT7型], CACNA1C(Timothy症候群または非Timothy: LQT8型)の報告が比較的多い. 遺伝型により心事故(失神や心臓突然死)を起こしやすい状況が異なり,LQT1型では運動(とくに水泳)時, LQT2型では突然の騒音(運動会などでのスターターピストルの音,目覚まし時計の音など)および情動ストレスや睡眠時,LQT3型では安静時や睡眠時があげられる. 2.1.2 1次検診抽出基準 QT延長の1次検診スクリーニング基準は,第1章のQT延長抽出基準の項(p.10, 21)を参照されたい. 原則として自動計測法(微分法)にて抽出した場合は手動計測法(接線法)による再判読が推奨される. 2.1.3 2次以降の検診で必要な診察・検査項目 後天性のLQTSである二次性LQTSを除外し,心電図の評価を進める(推奨表1).二次性LQTSの原因には薬剤,電解質異常,徐脈や器質的心疾患,甲状腺機能低下など がある(表15) 22).問診ではQT延長をきたす薬剤の投与 表15 二次性LQTS のおもな原因 • 薬剤性*抗不整脈薬(Ia群,III群抗不整脈薬など)抗菌薬(マクロライド系,ニューキノロン系など)注意欠如/多動症治療剤(メチルフェニデート,アトモキセチン)制吐剤(ドンペリドンなど)抗真菌薬抗アレルギー薬抗精神病薬高脂血症薬抗がん剤• 徐脈[房室ブロック,洞不全症候群(SSS)など] • 電解質異常(おもに,低カリウム血症,低カルシウム血症,低マグネシウム血症) • 心疾患(急性心筋梗塞,心筋症,心筋炎,たこつぼ心筋症) • 脳血管障害(脳出血,クモ膜下出血,脳梗塞,その他の脳神経系疾患) • 内分泌代謝疾患(甲状腺機能低下症,神経性食欲不振症,女性ホルモン) *QT 延長に関与する薬剤の情報はCredibleMedsのウェブサイト (https://www.crediblemeds.org/)を参照(日本循環器学会, 日本不整脈心電学会. 2022 22)より改変) 推奨表1先天性LQTS の診断に関する推奨とエビデンスレベル 推奨クラスエビデンス レベル 先天性LQTS を診断する際には手動計測(接線法)による再判読を行う. I C循環器医が臨床経過・家族歴・心電図から強く先天性LQTS を疑う症例にはLQTS の原因遺伝子に対する遺伝学的検査を行う. I C二次性LQTS を除外したうえで, Schwartz score ≧3.5,繰り返す12 誘導心電図でQTc ≧500 ms,またはLQTS 関連遺伝子に病的バリアントを有する場合にLQTS と診断する. I C二次性LQTS を除外したうえで,繰り返し記録された心電図でQTc 480~499 ms かつ説明のつかない失神を認める場合に,先天性LQTS と臨床診断することを考慮する. IIa C先天性LQTS を診断する際に運動負荷心電図を考慮する. IIa C先天性LQTS を診断する際に運動負荷が困難な場合にアドレナリン負荷を考慮してもよい. IIb C二次性LQTS を除外したうえで,繰り返し記録された心電図でQTc 480 ms 以上を先天性LQTS と臨床診断することを考慮してもよい. IIb C