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5.4 今後の課題

学校心臓検診が行われるようになってから50年ほどが経過したが,いまだに学校心臓検診の方法や精度については地域差が大きく,現状の把握もできていない.学校心臓検診開始後,学校管理下での心臓突然死による死亡率は明らかに減少していることから,わが国の心臓検診の果たしている役割は大きいと考えられる.しかし,その費用対効果については,全国的に統一された方法で実施されていない現状では正確な評価は困難である.限られた医療資源としての小児循環器内科医も今後さらに都市部に集約化していく流れになると思われ,現状のままでは地域差の拡大が予想される.学校心臓検診においても,将来的には心電図のデジタル化,遠隔判読システムなどを用いながら,全国的に統一された方法や精度の確立が求められる.

6 学校心臓検診の将来展望

6.1 問題点

6.1.1 国際的状況

児童生徒の心電図検診に関して,米国の循環器学会(AHA/ACC)は2014年の提言で,全児童生徒の心電図検診に慎重な姿勢を示したが44),これには医療保険制度の考え方やイデオロギー,人的リソース,医療費負担など日米での違い,法的責任との関連が推測された.一方,その後,海外での心電図判読ガイドラインが報告され(欧州循環器学会基準2005,2010,シアトル基準から国際基準) 45-49),わが国をはじめとする東アジアに加え,北米,欧州でも,全児童生徒に対する心電図検診によるスクリーニングの有効性の報告がなされた50-52).さらに,心電図検査のデジタル化と心電図の人工知能解析への期待から,欧米においても児童生徒の心電図検診の実装に向けた動きが進みつつあり,国際的な連携の動きが注目される.

6.1.2 わが国における現状と問題点

わが国における課題として,2013年発表の全国調査(文部科学省・学校保健会) 34)によれば,県別の要精検率,要管理率は,それぞれ1.4~8.3%,0.3~2.1%と6~7倍の差があり,判読の精度の地域差が示された.また,過半数の自治体で心臓検診判定委員会の開催状況,検診の未受

診者の把握,総括的な報告などは不明とされ,学校生活管理表の活用がなされていない市町もみられたことから,心電図の判読の質,精度の全国的な標準化,均てん化が課題とされた.

また,2021年の文部科学省の調査によると,対象となった学校の約90%で検診結果が保護者に紙ベースで返却されており,デジタル化の遅れが指摘されている53).さらに学校心臓検診の心電図判読,問診票のデジタル化も遅れており,従来からの学校心臓検診の紙ベースでの運用に関連して,運送業務,転記作業,個人情報管理など業務のフェーズごとの取りまとめが必要であり,今後の効率的な運用体制の構築が望まれる.

6.1.3 行政の動向と新しい時代の要請

近年,医療ビッグデータの利活用体制,マイナポータルを用いたPersonal Health Record(PHR)の活用,人工知能など情報通信技術(ICT)の進歩などに関連して,行政的な動向が注目されている.2018年12月に「健康寿命の延伸等を図るための脳卒中、心臓病その他の循環器病に係る対策に関する基本法」(以下、脳卒中・循環器病対策基本法)および「成育過程にある者及びその保護者並びに妊産婦に対し必要な成育医療等を切れ目なく提供するための施策の総合的な推進に関する法律」(以下、成育基本法)が成立し,2019年12月に施行された.2020年10月と2021年2月には,それぞれ「循環器病対策推進基本計画」,「成育医療等基本方針」が発表された54).学校における健康診断に関する記録の収集,管理・活用などに関する体制,データベース化,その他の必要な施策として,個人の健康などの情報を本人や家族が一元的に把握し,日常生活改善や必要に応じた受診などに役立てるため,乳幼児期・学童期の健診・予防接種などの健康に関する情報のビッグデータ化およびマイナポータルを用いたPHR化の推進が期待される.2022年6月7日に発表された,いわゆる「骨太方針2022」(経済財政運営と改革の基本方針2022)では,DXへの投資が重点分野の1つにあげられ,医療分野においても全国医療情報プラットフォームの創設,電子カルテ情報の標準化および診療報酬改定に関するDXなどを3本の柱とした医療DXの実現に向けた取り組みが始まった55, 56).また,2023年度から母子保健,医療費助成事業などの分野で,自治体,医療機関,対象者がデジタルデータを共有するシステムPMH(Public Medical Hub)の実証事業が開始され,学校健診への応用も期待される57).さらに,2024年4月に施行された「改正次世代医療基盤法」による医療ビッグデータの二次利用の促進も期待される(表12) 58).