p.9 抽出テキスト
Sasaki らはNippon Storm のサブ解析において,一次予防でICD を植込んだ非虚血性心筋症患者において,平均775 日の経過観察中に21% の患者でICD の適切作動を認めたことを報告した13).またHINODE 14)では,日本人心不全患者の予後やICD の適切作動率はMADIT- RIT と同様であったことが示された.同試験では,心不全患者354 人のうち患者背景を揃えた一次予防患者171 人を抽出し,MADIT-RIT 15)に参加した985 人と比較した.年間の全死亡回避率(HINODE 群96.3% vs. MADIT-RIT群96.9%,P =0.29)および年間の致死性不整脈回避率(それぞれ94.7% vs. 96.8%,P =0.61)において,両群には有意差は認められなかった.本邦での近年の心不全患者における致死性不整脈発生率は欧米と差はなく,以前考えられていたよりも高いと述べている. 1.1 高齢者(表3) 高齢者に対する一次予防のためのICD は,致死性不整脈による突然死の予防効果はあるものの,若年者と比較して併存疾患による非不整脈死のリスクが高いため,慎重に適応を検討する必要がある.Zakine らは,一次予防ICDに関してフランスの15 施設,8,333 人をスクリーニングし, 80 歳以上・80 歳未満のICD 患者各150 人を比較した16).平均3.0 年の観察期間にて,ICD の作動(19.4% vs. 21.6%,P =0.48)およびICD 植込み手術による合併症(21.2% vs. 14.0%,P =0.10)に関しては有意差を認めなかったものの,全死亡は高齢者のほうが有意に高かった(36.3% vs. 12.9%,P =0.005).4 つのMADIT から作成されたMADIT-ICD ベネフィットスコアに関する報告では,年齢(75 歳以上)は非不整脈死亡の危険因子であった17). EU-CERT-ICD は,欧州15 ヵ国の44 施設から登録された虚血・非虚血性心疾患の心機能低下症例(ニューヨーク心臓協会[NYHA]心機能分類II/III:LVEF ≦35%, NYHA 心機能分類I:LVEF ≦30%)2,247 人(ICD 植込み群1,516 人,非植込み群731 人)に関する前向きコホート研究である18).本研究において,傾向スコアを用いた共変量調整後,全体ではICD 植込み群では非植込み群に比べ死亡率が有意に低下したが(5.6% /年 vs. 9.2% /年,ハザード比[HR]0.73,P =0.014),75 歳以上ではICD による有意な死亡率低下は認められなかった(HR 1.06,P = 0.821).非虚血性心筋症1,116 人におけるICD の前向き比較試験であるDANISH のサブ解析においても,70 歳以下ではICD による死亡率低減効果を認めたものの(HR 0.70, P =0.03),70 歳を超える症例では低減効果は認められなかった(HR 1.05,P =0.84).70 歳以下では非突然死が100 人年あたり2.7 であったのに対し,70 歳を超える症例 では100 人年あたり5.4 と,死亡様式に差があることが示された19). このように高齢者においては,非不整脈死の可能性が若年者より高く,ICD による死亡率低減効果は限定的である.そのため高齢者でのICD 一次予防適応を決定する場合には,ICD による不整脈死の予防効果が高く,非不整脈死のリスクが低い症例を抽出することが重要である. 非不整脈死のリスクを考慮するうえで,フレイル,認知症,併存疾患の評価を行うことが重要である20).米国の循環器病データベースであるNational Cardiovascular Data Registry(NCDR)において,2006 ~2009 年に登録された一次予防ICD 患者83,792 人に関する報告では,10% にフレイルを,1% に認知症を認めた.1 年死亡率は全体では12% であったのに対して,フレイル症例では22%,認知症症例では27% と高かった21).フレイルとICD に関するメタ解析では,フレイルと死亡率は相関するものの,フレイルの定義がcumulative deficit model,low physical component summary score,低体重,6 分間歩行距離など, 表3 ICD の一次予防適応に関する推奨とエビデンスレベル 推奨クラスエビデンス レベル 高齢者のICD 適応を検討する際,不整脈死リスクが高く,非不整脈死リスクが低い症例を抽出するため,フレイルと認知症を含めた併存疾患の評価を考慮するIIa C心不全患者での不整脈死および非不整脈死のリスク評価に,MADIT-ICD ベネフィットスコア *1 やSeattle Proportional Risk Model(SPRM) *2 のスコアリングの使用を考慮するIIa B LVEF <50% の非虚血性心筋症患者で,心臓MRI のガドリニウム遅延造影陽性かつLMNA,PLN,FLNC,RBM20 の遺伝子のいずれかに病的変異を認める場合, ICD を考慮する *3 IIa B *1: https://redcap.urmc.rochester.edu/redcap/surveys/index. php?s=3H888TJ8N7 *2: https://depts.washington.edu/sprm/about.php *3: 厚生労働省が定めた医科診療報酬(K599 植込型除細動器移植術:保医発1228 第2 号)および特定保険医療材料(植込型除細動器:保医発0305 第5 号)の算定条件には,一次予防目的でのICD 使用は明記されていない.その一方で,各社ICD の添付文書にはその使用目的として「心室性の不整脈による突然死リスクが高い」という条件が記載され,一次予防適応を否定していない.また,本邦で示された多くのエビデンスは欧米と同等のICD 一次予防の有効性を示し,添付文書の基準を重要視した一次予防適応が医学的にも社会的にも広く認められている. LMNA:ラミンA/C,PLN:ホスホランバン,FLNC:フィラミンC,RBM20:RNA 結合モチーフ蛋白質20