p.36 抽出テキスト
破壊するぎりぎりの電界強度を与える電圧)付近で,きわめて短時間の場合,細胞膜に形成される穴は小さく,膜の自発的修復が可能である(可逆的電気穿孔[electroporation]).しかし,臨界電圧をはるかに超える電場がかかると,膜に修復不可能な大きな穴が開き,細胞死に至る(不可逆的electroporation).PFA はカテーテルを用い,標的となる心筋細胞に不可逆的electroporation を引き起こし,病変を作製する310a). 心筋細胞における不可逆的electroporation の電界強度閾値は,血管平滑筋,内皮細胞,神経細胞に比べきわめて低い.熱エネルギーを介する現行のカテーテルアブレーションでは周囲組織への影響(肺静脈狭窄,横隔神経麻痺,左房食道瘻,胃蠕動運動障害など)が認められるが,PFAは標的心筋細胞を選択的に傷害するため,それらを引き起こすリスクはきわめて低い310a). また,PFA は高周波のようにカテーテルと標的の間にコンタクトフォースを発生させる必要がないため,コンタクトフォースが不十分なために効果が減弱することもない. PFA による作製病変は電界強度に依存するため,カテーテルと標的部位が極端に離れていなければ肺静脈隔離の持続性(durability)も保たれると考えられる.このように,PFAは現行のカテーテルアブレーションの有効性,安全性のいずれをも大きく改善することが期待されている. 3.2 臨床データ PFA のfirst-in-human の臨床試験(IMPULSE/PEFCAT)は,発作性心房細動患者81 人に対して施行された310b).使用されたカテーテルは12 Fr のオーバーザワイヤータイプ(FARAWAVETM,ボストン・サイエンティフィック社製)であり,先端形状がバスケット型あるいは花びら型に変化し,肺静脈入口部の形状に追従する.肺静脈隔離のためのPFA 送出時間は3 分以内,総術時間は左房内の三次元マッピング作成時間(平均18 分)を含めて1 時間半であった. 同試験は,出力波形を試験開始時の単相性設定から二相性1 →2 →3 と改良して行われ,3 ヵ月後の肺静脈隔離維持率は,単相性設定時の18% から二相性3 設定では100% まで改善した.安全性においても心タンポナーデ1人を認めたのみであり,その他の有害事象(脳卒中,横隔神経麻痺,肺静脈狭窄,食道損傷)は認められなかった.症例数を計121 人まで加えて追跡が継続され,1 年後の追跡では全例で78.5%,最適化された出力波形(二相性3 設定)で84.5% の洞調律維持率が示された310c). 肺静脈隔離用のPFA カテーテルは,FARAWAVETM以外にも複数の他社製カテーテルを使用した臨床試験が進行中であり,2023 年,ループ型PFA カテーテル (PulseSelect TM,メドトロニック社製)を用いたPULSED AF の結果が発表された311).本試験は本邦を含む世界9 ヵ国,41 施設で行われた多施設前向き観察研究で,心房細動患者300 人(発作性150 人,持続性150 人)が解析対象となった.1 年間の追跡で,有効性一次エンドポイント(急性期の手技不成功/ 不整脈再発/ 抗不整脈薬のエスカレーションの回避率)は,発作性・持続性心房細動でそれぞれ66.2%・55.1% であった.安全性一次エンドポイント(手技あるいはデバイスに関連した有害事象)は,両群ともに0.7%(脳血管障害1/150 人,心タンポナーデ1/150 人)にとどまった. さらに同じく2023 年,可変式ループ型カテーテル(VARIPULSE ®,バイオセンスウェブスター社製)を用いた肺静脈一括隔離の1 年の追跡結果(inspIRE)も報告された312).VARIPULSE ® カテーテルの特長は同社の三次元マッピングシステムCARTO システムと統合されており,同一のカテーテルでマッピングとPFA が可能な点である.肺静脈一括隔離を目的としたデバイスとしては現状唯一のものといえる.本試験では薬物治療抵抗性の症候性発作性心房細動患者226 人のうち,83 人が1 年追跡に到達した.症候性の心房細動・心房粗動・心房頻拍の非再発率は78.9% で,その間に主要な有害事象は確認されなかった. これらの3 試験はいずれもPFA 群単独の前向き研究であるが,2023 年8 月,PFA 群と高周波/ クライオアブレーション群とを比較した前向きRCT(ADVENT)の結果が報告され,PFA は有効性,安全性いずれも非劣性を示している313). 3.3 安全性 左房食道瘻はまれながら致死的な合併症である.その回避は重要な課題であり,PFA の心筋選択性に期待が寄せられている.ブタの食道へのアブレーションモデルを使用した実験からは,高周波群(4 例)では全例で食道損傷(左房食道瘻1 例を含む)が確認されたが,PFA 群(6 例)では確認されなかった314).また,PFA では横隔神経への影響も小さいことが動物実験で示されている315).ブタの右房から横隔神経へ200 J 単回のPFA が行われたが,横隔神経はアブレーション直後では17/19 例,30 分後では19 例全例で捕捉された.15 例は3 ~13 週後にフォローされたが,横隔神経に問題はなかった.臨床的にもPFA 直後の一過性の横隔神経麻痺は報告されているものの316),長期的には問題ないと考えられている. 肺静脈狭窄についても,動物実験にてPFA による影響