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p.88 抽出テキスト

心臓や血管の病気は,わが国においても多くの人が罹患し,また死亡原因としても重要な位置を占めます.その成り立ちについての理解は日々深まり,また薬物・カテーテルあるいは手術療法などの治療法の進歩には目をみはるものがあります.

心臓・血管の病気の中にはある1 つの遺伝子の変化(バリアントと呼びます)により病気が発症するもの(単一遺伝子疾患)から,複数の遺伝子の変化に喫煙・飲酒などの環境要因が加わって発症する(多因子疾患)もの(例えば心筋梗塞などの冠動脈疾患や心房細動などの不整脈)が知られおり,一部ではありますが,個別化医療「プレシジョンメディシン」も活かされるようになりました.

この遺伝あるいは遺伝子に関する研究は1970 ~1980 年代に始まり,2000 年前後のヒト全ゲノムの解読,さらに高速に遺伝子配列情報を読み解くことが可能なNGS(次世代シーケンス)技術の導入等により,近年飛躍的に進展し,多くの心臓・血管病の成因,遺伝子の役割またその遺伝子の変化,およびその結果の解釈について,たくさんの知識・情報が集積されました.

現在実施されている遺伝子解析は,病気と遺伝子の変化との関係性が明らかなものについて患者さんから対価を頂いて遺伝学的検査を行う「遺伝子診断」(すでに保険診療として認められているものも多くあります)と,いまだ遺伝子との疾病発症・重症度あるいは治療との反応性などが明らかでない場合,関連性を検討したり,新規の遺伝子の個人差を学術的視点から分析を行う「遺伝子研究」に分けることができます.

今回のガイドラインでは,心臓・血管の病気のさまざまな領域での遺伝子研究の最近の進歩や,将来の診療応用の可能性について触れていますが,ガイドラインの主眼は「遺伝子診断」,すなわち診療のために遺伝子を調べ,その結果を依頼者の診療と日々の生活に活かすことに力点を置きまとめました.遺伝子診断においては,検査・解析を実施することの倫理性や,結果が依頼者へ及ぼす影響が大きいため,依頼者の意思を最大限活かすことが必要と考えられます.そのためカウンセリングが大切であり,第一に依頼者の希望,依頼者本人・家族が抱えている問題を傾聴し寄り添うことが必要です.続いて依頼者が罹患中あるいは罹患の可能性がある疾患について医学的,遺伝学的情報を集め,併せて病気とその発症に関係する遺伝子およびその遺伝子の変化の可能性,また,それを調べるメリット・デメリットについて平易な言葉で分かりやすく説明することが肝要です.遺伝学的検査に同意が得られたのち,信頼性の高い手法・体制により遺伝学的検査が実施されます.また,解析が終了し得られた結果については,依頼者の希望を再確認したうえで,依頼者あるいは同席のご家族に対してわかりやすい形で,また反応を注意深く観察しながら説明が行われます.

この全体のプロセスは「チーム医療」,特に患者さんの病気に詳しく診療を担当される循環器領域を専門とする医師と,遺伝に詳しい臨床遺伝専門医・遺伝カウンセラーの連携体制によって実施されます.

このガイドラインが循環器診療に従事する医師および医療スタッフ,患者さん・ご家族にとってお役に立てるものとなれば幸甚に存じます.

第15章 市民・患者への情報提供