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p.87 抽出テキスト

FH に対する遺伝学的検査結果の留意点は,FH に限らずあらゆる遺伝性疾患とも共通するが,現状の遺伝学的検査にも限界がある.臨床的にFH と診断された例に対する解析での病原性変異の検出率は60 ~80% 程度と報告されている.さらにはFH の原因遺伝子変異のうち10% 程度はLDLR 遺伝子の構造変異とされている.したがって,解析手法によってはこのような構造変異が同定できないため注意が必要である.

5 FH の治療

FH ヘテロ接合体はきわめてASCVD  (atherosclerotic cardiovascular disease)の発症リスクが高く,とくに冠動脈疾患のリスクが高い疾患であることから,一次予防における発症リスクは少なくとも通常の二次予防に相当すると考えられる.したがって,一次予防のFH ヘテロ接合体患者のLDL-C 管理目標値は100 mg/dL 未満とすることが望ましい.二次予防のFH ヘテロ接合体患者においてはさらに高リスクと考えられるため,LDL-C 管理目標値は70 mg/dL 未満を目標とする.

スタチンは通常用量より開始し,その効果および副作用の有無を観察しながら増量する.スタチンによるLDL-Cの低下効果は用量依存的に増強するが,副作用の頻度や重症度も増すことがあるので注意が必要である.スタチン不耐性患者に対しては,別のスタチンの処方や投与間隔を工夫(隔日,週2 回など)し,最大耐用量まで増量を目指す546).スタチン単独投与で十分な効果が得られない場合,エゼチミブやPCSK9 阻害薬を用いる.通常の内服治療に加えてPCSK9 阻害薬の併用療法を実施しても,期待されるLDL-C 低下効果が得られない場合には,FH ホモ接合体の可能性が高いため,遺伝学的検査を含めて専門医

に紹介するべきである.

FH ホモ接合体では上記の生活習慣への介入のみではコントロールは不可能であり,冠動脈疾患の発症進展予防のためには若年期から強力なLDL-C 低下治療を要する.スタチンや陰イオン交換樹脂(レジン),PCSK9 阻害薬はいずれもその主要な作用機序がLDL 受容体の発現(活性)増強であるため,LDL 受容体活性がわずかに残っているdefective type では少ないながらも効果を認めるが,LDL受容体活性が完全に欠損しているnegative type ではLDL-C 低下効果を認めない547-549).成人FH ホモ接合体患者を対象とし,PCSK9 阻害薬のLDL-C 低下効果を検証した試験550)において,PCSK9 阻害薬のLDL-C 低下作用(30% 程度)は確認されているものの,このような観点および医療経済的な観点から,PCSK9 阻害薬を数回投与してもLDL-C がまったく低下しない場合には中止すべきである.FH ホモ接合体患者を対象として開発されたmicrosomal triglyceride transfer protein(MTP)阻害薬(ロミタピドメシル酸塩)は,LDL-C を約50% 低下させることが報告されている551).日本のFH ホモ接合体患者を対象とした治験も行われ552),上市されている.しかしながら, MTP 阻害薬は高頻度で脂肪肝や下痢の副作用が認められるため,食事中の脂質やアルコールの摂取量を厳格に管理することが肝要である553).全世界のFH ホモ接合体の登録研究より,FH ホモ接合体は,より多くの薬剤を用いて,よりLDL-C 値を低下させるほど,その予後がよいことが報告された554).また,FH ホモ接合体患者を対象として開発されたangiopoietin-like 3 阻害薬(ヒト化抗ANGPTL3モノク ローナル抗体)は,LDL-C を約50% 低下させることが報告され555),わが国において2024 年1 月に承認された.