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第13章 静脈血栓症 1 疾患概念 静脈血栓症とは,静脈内に血栓を生じることが原因で発症する疾患である.静脈血栓症の代表的な疾患として深部静脈血栓症や肺血栓塞栓症がある.1856 年にRudolf Virchow は,血管内の血栓形成には,1)血流の停滞,2)血管内皮障害,3)血液凝固能の亢進の3 つの要因が関わることを提唱した.その要因により血管内の凝固と線溶のバランスが崩れ,過凝固状態になることで静脈内に血栓が生じると静脈血栓症を発症する.静脈血栓症は,環境的要因と遺伝的要因が絡み合って発症する場合がある. わが国において静脈血栓症の遺伝性血栓性素因の代表的な疾患として,アンチトロンビン(AT)欠乏症,プロテインC(PC)欠乏症,プロテインS(PS)欠乏症があげられる520).いずれも遺伝形式は常染色体顕性遺伝(優性遺伝)である. AT,PC,PS は,血液凝固制御因子であり,血液凝固制御因子の機能低下により凝固因子活性亢進を抑制することができなくなり静脈血栓症を発症する. これら3 つの遺伝性凝固制御因子欠乏に伴う血栓症は,特発性血栓症と呼ばれ,稀に重篤な血栓症を引き起こすことがある.2017 年4 月に「指定難病327:特発性血栓症(遺伝性血栓性素因によるものに限る)」として指定難病に認定されている.遺伝性血栓性素因を疑う特徴として,1誘因のないもしくは弱い曝露因子での若年発症(<50 歳), 2 静脈血栓症の家族歴(特に若年者発症),3 静脈血栓症の繰り返す再発,4 稀な位置(腸間膜静脈や脳矢状静脈など)での静脈血栓症がある521).これら1~4を認める場合は,積極的に遺伝性血栓性素因の検索を行う必要がある. 白人において静脈血栓症の遺伝的要因として凝固第V 因子Leiden バリアント(R506Q バリアント)とプロトロンビンG20210A バリアントが知られているが,日本人を含む東アジア人には認められない. 一方でPS 欠乏症の1 つであるPS p.K196E バリアントは,日本人に広く同定されている病的バリアントである. PS p.K196E バリアントは,日本人の約55 人に1 人認めら れ,日本人に広くみられる遺伝子バリアントと考えられる.また最近プロトロンビン遺伝子バリアントが,アンチトロンビンレジスタンスとして静脈血栓症発症にかかわることが日本からはじめて報告され522),その後もわが国からの報告が続き注目を集めている523-525) 2 遺伝性血栓性素因の スクリーニング検査 特に遺伝性血栓性素因の特徴(前述1~4)を有している場合,凝血学的検査としてAT 活性,PC 活性およびPS 活性の測定を積極的に行う.各々の活性値が低ければ特発性血栓症の可能性を疑う.またAT,PC およびPS の抗原値の測定を追加することで欠乏症のタイプ分類も可能となる.抗原値および活性値の両者が低下していれば,量的欠乏症を示唆し,抗原は正常/ もしくは軽度低下で活性値が低下していれば質的欠乏症を示唆する.AT 欠乏症においては量的欠乏症の方が,質的欠乏症より発症年齢が早く,生涯VTE イベントフリーでいる可能性は低いことが報告されている526).静脈血栓症の遺伝性血栓性素因精査の特徴として最初に遺伝子検査を行うのでなく,AT,PC, PS 活性を測定することにより,各々の凝固制御因子の欠乏があるかどうかある程度予測することができる. 一方で活性および抗原測定に関しては,さまざまな後天的因子により低値をきたす場合がある.表41 に静脈血栓 表41 静脈血栓症の遺伝学的検査に関する推奨とエビデンスレベル 推奨クラスエビデンス レベル 遺伝性血栓性素因を疑う特徴を有する患者において積極的にAT,PC およびPS活性を測定する. I C AT,PC およびPS 活性が,他の誘因なく低下している場合,積極的に遺伝学的検査を考慮する. IIa C