p.72 抽出テキスト
2.2 家族性胸部大動脈瘤・解離の原因遺伝子 現在までに大動脈瘤・解離の発症に関連する原因遺伝子としては10 数種類の報告がある一方,大動脈瘤・解離家系でそれらの遺伝子群を網羅的に調べても変異が検出されないことが少なからずあり,いまだ検出されていない原因遺伝子が一定数存在すること,既知の原因遺伝子診断での変異未検出が家族性大動脈瘤・解離の除外ができないことを留意すべきである. 主要な原因遺伝子として血管平滑筋の収縮自体あるいは制御に関わる蛋白質をコードする遺伝子(ACTA2,MYH11, MYLK)変異が知られている.その中でACTA2 変異376-378)が最も頻度が高く(全体の12 ~21%),遺伝子変異の部位・種類によっては冠動脈疾患,脳血管障害やもやもや病に似た脳動脈奇形を呈するものもある.瞳孔の収縮障害を示す症例も知られている.特にArg179 残基の変異を伴うものは散瞳(瞳孔収縮障害),内頸動脈の近位部拡張・遠位部狭窄,腸回転異常,弛緩性膀胱など身体表現型も多彩である他,大動脈表現型が重度で早発の傾向があるため注意を要するに認められ,また認められるため慎重な対応が必要である379).頻度は低い(1% 程度)がMYH11 遺伝子変異214)では,その保因者の中にPDA を伴うものがあり,その遺伝子改変マウスでも同様の表現型が観察されており収縮不全,接着分子・収縮蛋白の構造異常が背景にあると想定される380, 381).ミオシン軽鎖リン酸化酵素MYLK 382),さらに血管平滑筋弛緩に関係するcGMP 依存性蛋白キナーゼをコードするPRKG1 遺伝子変異も大動脈瘤・解離の原因遺伝子とされている375).それ以外にもNOTCH1, LOX, FOXE3 遺伝子等,またBAV(NOTCH1 遺伝子などが関与),多発性嚢胞腎,Turner 症候群などが大動脈解離・大動脈瘤に関連するとする報告がある202, 383-386). FTAAD における遺伝子検査は現在,保険診療となっており,主要な原因遺伝子およびMarfan 症候群,Loeys- Dietz 症候群,血管型Ehlers-Danlos 症候群などの原因遺伝子を併せて評価されている(パネル解析).身体的表現型を認めない家族性胸部大動脈瘤・解離においてat risk と なる家族を検出する面などを考えると遺伝子検査の有用性が考えられるが,浸透率が必ずしも高くない点から同一家系において,家系内の複数の罹患者さらには非罹患者を対象に遺伝子解析を行うことも考慮される.解析対象とされる遺伝子として,病原性が明らかなもの,関連性が示唆されるものについて表38 に示した387). 2.3 心臓血管系の異常 大動脈解離・大動脈瘤(特に胸部)が主たる表現型である.代表的なものとしてACTA2 変異では冠動脈疾患,脳血管障害やもやもや病に似た脳動脈奇形を呈するものもある.MYH11 遺伝子変異では,その保因者の中にPDA を伴うものがある. 2.4 臨床検査・評価 胸部X線検査,心電図,心エコー,CT あるいはMRI 検査を行い診断する.大動脈径の拡大がないからといって本疾患を除外することはできない.症候性の大動脈瘤・解離と鑑別するために眼科検診,CT/MRI 時には肺病変(ブラ),骨格異常(側弯,漏斗胸など),硬膜拡張(dural ectasia)の有無等,全身表現型の有無について評価を行うことが肝要である. 2.5 注意すべき病状の進行 大動脈瘤・大動脈拡大の進行に注意が必要である.血管径拡大は大動脈解離のリスクとなるが,血管径拡大がなくとも解離を生じることがある.大動脈瘤径の拡大がMarfan 症候群の0.1 cm/年に比して0.2 cm/年と有意に速いとの報告もあり定期的なフォローアップが重要である.発症部位・年齢は同一家族内でも必ずしも一定でない.また挙児希望の女性においては大動脈径の有意な拡大がなくとも妊娠・出産・産褥期に大動脈解離をきたすことがあり 表38 家族性大動脈瘤・解離の原因遺伝子あるいは候補遺伝子 確定的・強いエビデンスがあるACTA2,MYH11,MYLK COL3A1,FBN1,TGFBR1,TGFBR2,SMAD3 TGFB2,LOX,PRKG1中等度のエビデンスを伴い,診断的に有用である可能性があるEFEMP2,ELN,FBN2,FLNA,TGFB3 NOTCH1,SLC2A10,SMAD4,SKIエビデンスは限定的であるCBS,COL4A5,PKD1,PKD2 (Salmasi MY, et al. 2023 387)を参考に作表)