p.67 抽出テキスト
1.1.5 臨床検査・評価 胸部X線検査,心電図,心エコー(年2 回程度が目安), CT あるいはMRI 検査を行い診断する.特に放射線被曝がない点でMRI のメリットが大きい.大動脈瘤・拡大の進行が懸念される場合にはさらに検査頻度を増やす. 症候群であるため眼科検診,CT/MRI 時には肺病変(ブラ),骨格異常(側弯,漏斗胸など),硬膜拡張(dural ectasia)の有無など全身表現型の評価を行うことが肝要である.なお,欧米人と日本人とでは表現型に相違点があり,日本人では身体的表現型の頻度が相対的に低く,一方,気胸が相対的に多く認められる傾向がある333, 334). 1.1.6 注意すべき病状の進行 大動脈瘤・大動脈基部拡大の進行に注意が必要である.血管径拡大は大動脈解離のリスクとなるが,血管径拡大がなくとも解離を生じることがある.大動脈基部拡大を伴う場合は大動脈弁閉鎖不全,僧帽弁逸脱の場合には僧帽弁閉鎖不全の進行を伴うことがあり,それに関連した左心機能低下,心不全にも注意を要する. 1.1.7 治療および生活管理など 身体表現型にそって治療が行われるが大動脈拡大の進行予防にはβ遮断薬,アンジオテンシン受容体拮抗薬335, 336)が有効とされ,小児例では小児期から投与が行われる.その点で遺伝子診断は成人例のみならず小児においても治療介入を行うか否かの判断材料として有用と思われる.大動脈拡大,大動脈解離および瘤に対して人工血管を用いた外科手術が行われるが詳細は2020 年改訂版大動脈瘤・大動脈解離治療ガイドライン337)を参照されたい.大動脈基部拡大あるいは解離の症例で大動脈弁病変が含まれる場合,人工弁置換を伴うBentall 手術が従来実施されてきているが,大動脈弁位の自己弁を温存する自己弁温存大動脈基部置換術(Reimplantation 法や Remodeling 法)が普及し選択されることも多い. 運動制限は特に大動脈の拡大がある場合や解離を伴う場合には,重い物を持ち上げる,息こらえの必要な運動,激しい運動は回避するよう指導する. 妊娠出産に関してはバルサルバ洞径が40 mm 未満であれば妊娠許可,45 mm 以上は妊娠禁忌とされている338).女性患者では特に思春期から妊娠の可否に関する教育を行っておくことが肝要である.詳細は心疾患患者の妊娠・出産の適応,管理に関するガイドライン(2018 年改訂版) 338)を参照されたい. 1.1.8 着床前診断 本症候群はその対象外であり,わが国での実施例はない. 1.1.9 予後 最近の手術成績は遠隔成績を含めて良好で,心血管病変を発症しても適切な外科手術および薬物療法・日常生活の管理により70 歳以上の生存が可能と思われる.他部位の血管病変の進行・発生による再手術は多く,10 年の再手術回避率は6 割程度と言われており,特に大動脈解離を合併する場合は残存病変に対する再・追加手術が多い傾向がある.きめ細やかな追跡と的確な治療介入が重要である. 1.1.10 類縁疾患・鑑別 他の身体所見を伴う症候性大動脈瘤・解離として,後述のTGFβ受容体・リガンドおよびその細胞内情報伝達系であるsmad 群の遺伝子異常に伴うMarfan 症候群類縁疾患, 血管型Ehlers-Danlos 症候群が鑑別にあがる.他の身体所見を伴わない家族性大動脈瘤・解離もある.それぞれ該当項目を参照されたい. 1.2 Loeys-Dietz 症候群 1.2.1 疾患概念および遺伝子の異常 Marfan 症候群類縁疾患としてTGFBR1/TGFBR2 に病的バリアントを有するLoeys-Dietz 症候群339-341)では血管の蛇行等が目立つとともに,より若年で重症の大動脈病変を呈することが多いと考えられており早期の鑑別が重要である.この症候群では身体表現型がMarfan 症候群に認められる所見とは異なり両眼解離症,口蓋裂/ 口蓋垂裂,上行大動脈拡張/ 解離が主な特徴といえる.TGFβリガンド(TGFB2 342), TGFB3 343)),SMAD3 344)の遺伝子異常がある場合にもMarfan 症候群に類似した表現型を示すことが知られている. Marfan 症候群はもちろんのこと,Loeys-Dietz 症候群において遺伝子診断が保険償還されておりTGFBR1, TGFBR2 はもちろんのこと,FBN1,TGF-smad 系の遺伝子群をパネルで解析されることが多い.Loeys-Dietz 症候群は乳幼児期から表現型を呈することが多く,しかも血管蛇行を伴い脳血管など他臓器血管病変の合併も多い点から乳・幼児期にその疾患を疑い,遺伝学的検査の結果を参考にしつつ治療介入を行う必要性がある. 欧米でのLoeys-Dietz 症候群(TGFβ受容体遺伝子異常に限定せず,TGFβリガンド,SMAD 遺伝子異常を含め