p.65 抽出テキスト
年の研究では日本人対象者をさらに増加させ,5 つの新領域を含む31 の疾患感受性座位を同定した.またヨーロッパで実施された研究と組み合わせて,33 の新領域を含む150 の疾患感受性座位を同定した315). AF のPRS に関しては,臨床的リスク因子が存在しない場合での疾患発症予測精度の向上や316-318),疾患の早期発見の予測など319, 320),いくつかの有用性が欧米人を中心に報告されていた(PRS については,第4 章,第11 章を参照).しかし,人種によって個々のバリアントの頻度は異なっており,PRS を算出するために用いるGWAS においても人種特異的な疾患感受性座位が同定される.つまり欧米人GWAS から算出されたPRS が,日本人にそのまま適応できるかが問題であった. そこで,2023 年の研究では人種を限定したGWAS からPRS を算出した場合と人種横断的なGWAS から算出されたPRS のどちらが,日本人で性能が高いか検証された.まず日本人単独のGWAS から算出されたPRS と欧米人の みを対象としたGWAS から算出されたPRS を比較したところ,日本人に対しては日本人のみを対象としたGWAS由来のPRS の方が有意に高性能であることが示された.次に日本人GWAS と欧米人GWAS の結果を組み合わせて算出されたPRS との比較が行われた.その結果,日本人単独GWAS で算出されたPRS より,人種横断的なGWAS から算出されたPRS の方が高性能であった.さらにこのAF に対するPRS は心原性脳梗塞のみならず,心血管死亡および脳卒中死亡との関連も認められた315). このように,AF のGWAS から算出されたPRS は未発症者に対するリスク評価として有用である可能性が示唆されている321).しかし2023 年現在,実臨床においてはPRSの算出は実施されておらず,PRS に基づくAF に対する予防的介入は実施されていない. 第10章 動脈疾患,結合織疾患 大動脈瘤・大動脈解離を主とする大動脈疾患は,Marfan症候群やEhlers-Danlos 症候群などに代表されるそれぞれの疾患特異的な身体表現型を伴う症候群性大動脈瘤・解離(大動脈疾患)と,身体表現型を伴わない非症候群性大動脈瘤・解離(大動脈疾患)に大別されるため,第1 項で症候群性,第2 項は非症候群性と分けて概説する.症候性大動脈瘤・解離の多くは結合織疾患である.結合織疾患には必ずしも大動脈表現型を伴わないものもあるが,疾患の鑑別・理解に必要と考えられるものは記載した.第3 項では大動脈・末梢動脈を含めた血管炎および末梢動脈疾患について述べる. 1 症候群性遺伝性大動脈疾患 1.1 Marfan 症候群 1.1.1 疾患概念 Marfan 症候群は結合織異常が原因の遺伝性疾患で骨格,眼,大血管・心臓に主な表現型を呈する常染色体顕性遺伝(優性遺伝)疾患である322, 323).発生頻度は少なくとも 5,000人に1 人とされ性差はない. 1.1.2 遺伝子の異常 フィブリリン1 遺伝子(FBN1)異常による324, 325).従来,フィブリリン分子あるいはその多量体の構造学的異常によ