p.64 抽出テキスト
2.3 先天性QT 短縮症候群(SQTS) SQTS は2000 年に概念疾患がはじめて報告された比較的新しい疾患であり,心電図でのQT 時間の短縮とVF を特徴とし,AF の合併も多い.QT 時間短縮の基準については,2013 年のConsensus report で330 ~340 ms 以下,もしくは病的変異の保持や家族歴などがある場合には360 ms 以下とされている305).SQTS は常染色体顕性遺伝(優性遺伝)形式をとり,2004 年にKCNH2 306)とKCNQ1 307)が,2005 年にKCNJ2 308)がSQTS の原因遺伝子であることが報告された.さらにSLC4A3 が新規原因遺伝子として2017 年に報告されている309).L タイプカルシウムチャネル関連の遺伝子(CACNA1C, CACNA2D1, CACNB2)も原因遺伝子として報告されていたが,2021 年に発表されたClinGen では否定的とされている301). 原因遺伝子のうち,KCNH2, KCNQ1, KCNJ2 はカリウムチャネルをコードする遺伝子であり,先天性LQTS の原因遺伝子でもある.LQTS で同定される変異が機能喪失型バリアントであるのに対し,SQTS で同定される変異は機能獲得型バリアントである.一方SLC4A3 は細胞膜上に発現しているCl-HCO3 交換体(Anion exchange protein 3: AE3)をコードしており,pH の変化がQT 短縮の原因と考えられている309).ただこれまで2 家系の1 つの変異(p.R370H)が同定されているのみであり,詳細な発症メカニズムには今後の研究が必要である. 2.4 進行性伝導障害(PCCD) PCCD は加齢とともに伝導障害を生じる疾患である.PR間隔の延長,QRS 幅の拡大から各レベルの房室ブロックまで病態はさまざまである.心筋症合併の有無によって原因 遺伝子変異は異なっている.SCN5A とTRPM4 のバリアントを原因とするPCCD では心筋症の合併はないとされている.ただSCN5A 変異はDCM の原因となることがある.心筋症を合併するPCCD の重要な原因遺伝子はLMNA である.LMNA バリアントを原因とするラミン心筋症は予後の悪いDCM であるが218),初期症状は徐脈や房室ブロックであることが多い.そのため詳細な家族歴の聴取でラミン心筋症を疑った場合には,LMNA のスクリーニングが推奨される.他にもさまざまな心筋症に合併するPCCD があり,詳細は遺伝性不整脈の診療に関するガイドライン(2017年改訂版)を参照のこと286). 2.5 心房細動(AF) AF は最も罹患率の高い不整脈であり,AF の遺伝性については,家族性に発症する単一遺伝性疾患と,加齢とともに罹患者が増加する多因子疾患として考える必要がある. 家族性のAF はSCN5A やKCNQ1 の変異を原因とすることが多く,Brugada 症候群や先天性QT 短縮症候群を合併することが多い.また各種心筋症に合併することもある250, 291). 一方,多因子疾患としてのAF については,多くの疾患感受性座位がGWAS で同定されており,これらの情報はAF の発症リスクのみならず,薬剤への反応性310)やアブレーション治療後の再発リスクの予想311)にも有用であることが報告されている. AF のGWAS が実施されるようになった初期から強い相関を示していたのが,4q25 のPITX2 近傍の領域である312).このPITX2 は転写因子であり,心臓の左右非対称性に関わるとともに,多くのイオンチャネルを含めた遺伝子発現に影響を及ぼしている310).その後,わが国単独,およびわが国を含めた世界的なコンソーシアムでAF に対するGWAS が実施されてきた. 2017 年に発表された8,180 人の日本人AF 患者を対象としたGWAS 研究では,それまでに報告されていたPRRX1,PITX2,GJA1–HSF2,CAV1,NEURL1,TBX5 and CUX2,ZFHX3 を含む7 つの領域に加え,KCND3 やHAND2 などと関連した新たな9 つの座位が,AF と関連していることが明らかになった313).2018 年には,日本人や欧米人を含む国際共同研究で97 の疾患感受性座位が同定され,これらは心臓の発生,電気生理学的機能,心筋収縮および構造的機能に関与しており,AF 発症の基盤にある生物学的メカニズムの解明に貢献した314).続いて,2023 表32 CPVT の遺伝学的検査に関する推奨とエビデンスレベル 推奨クラスエビデンス レベル CPVT の診断基準を満たす症例を対象とする,CPVT の確立された原因遺伝子(RYR2,CASQ2,CALM1-3,TRDN, TECRL)についての遺伝学的検査を行う. I C CPVT の原因となるバリアントが同定された症例の家族と血縁者に対する特定のバリアントに対する遺伝学的検査を行う. I C CPVT の病的バリアントを持っているリスクのある未発症の子どもに対する遺伝学的検査を行う. I C