p.62 抽出テキスト
フォームド・コンセントを行ってから検査を実施すべきで,検査について患者・家族に対する説明・同意文書への署名が必要である. LQTS の遺伝学的検査では,これまで報告のない新規のバリアントや,VUS も多い.このような場合には,家系内での遺伝型と表現型との整合性が参考になる.疾患との関連が不確実な遺伝子バリアントについての正しい評価が困難な場合,LQTS の遺伝学的検査について経験の多い施設でかつエキスパートパネルによる判断が必要である.さらに遺伝学的検査で病的バリアントは認められない結果が出たとしても,LQTS が否定されるものではない. 同胞,血縁者に対する遺伝学的検査は特に注意を要する. LQTS は必ずしも表現型の浸透率が100% ではない,つま り安静時の通常心電図ではQT 延長を認めないバリアント保有者もいる.しかし一見すると正常にみえる心電図でもLQTS の病的バリアントの保因者の場合は,突発的なストレスや薬剤等などでQT 延長が顕在化し致死性不整脈をきたす恐れがあるため,血縁者診断による保因者診断はできれば実施したほうがよい.LQTS の心イベントは一般的に学童期~思春期に多いため,特に若年の同胞(兄弟姉妹)は積極的に検査を勧める(表29). 2 その他の不整脈 先天性LQTS 以外の遺伝性不整脈として,致死性の心室不整脈を生じるBrugada 症候群,CPVT,先天性QT 短縮症候群(SQTS)や,徐脈を生じる進行性伝導障害(Progressive cardiac conduction disease: PCCD)や家族性徐脈,さらにAF についても遺伝性が報告されている. 2.1 Brugada 症候群 Brugada 症候群は,壮年期男性に好発し,安静時心電図の右側胸部誘導でのST 上昇(Brugada 型心電図)を特徴とする疾患である.夜間から早朝にかけての安静時にVFから突然死を生じる疾患で,わが国ではポックリ病と呼ばれてきた.1998 年に原因遺伝子として心臓ナトリウムチャネルをコードするSCN5A が報告され295),それ以降20 を超える原因遺伝子が報告された.ただ最近のClinGen ではSCN5A のみが確実な原因遺伝子とされている296). SCN5A はLQTS 3 型(LQT3)の原因遺伝子でもある. Brugada 症候群で同定されるSCN5A 変異は機能低下・喪失型のバリアントであり,心臓ナトリウムチャネル電流の減少がVF の原因となる.一方,LQT3 で同定されるSCN5A 変異は機能獲得型変異であり,遅延ナトリウム電流増加がQT 延長の原因となる.ただp.E1784K など,一部のSCN5A 変異においては機能喪失・獲得の両者の特徴を呈することがあり297),同定された変異のみならず,臨床像の詳細な観察が重要である. 一般住民でのBrugada 型心電図の頻度は0.1 ~0.3% 程度と高いものの,無症候性患者がVF を発症する頻度は年間0.3% 程度とされており,Brugada 型心電図を呈し,ハイリスクな患者を抽出することが重要である.最近の報告では,SCN5A 変異がイベント予測に有用であるとされている298).さらに同定された変異が機能喪失型である場合 表29 LQTS に対する遺伝学的検査の推奨とエビデンスレベル 推奨クラスエビデンス レベル 臨床経過,家族歴,心電図(安静時12 誘導心電図,ホルター,運動負荷試験)からLQTS と診断あるいは循環器医が強く疑う症例に対するLQTS の原因として確実な遺伝子(KCNQ1,KCNH2,SCN5A, CALM1, CALM2,CALM3)に対する遺伝学的検査を行う. I C Jervell and Lange-Nielsen 症候群を疑う場合;KCNQ1,KCNE1,Timothy 症候群を疑う場合;CACNA1C, Andersen- Tawil 症候群を疑う場合;KCNJ2,Triadin knockout 症候群を疑う場合;TRDN に対する遺伝学的検査を行う. I C先天性LQTS の家族または適切な血縁者に対して,発端者に同定されたLQTS 原因遺伝子変異に対する遺伝学的検査を行う. I C臨床経過,家族歴,心電図(安静時12 誘導心電図,ホルター,運動負荷試験)からLQTS と診断あるいは循環器医が強く疑う症例に対するCACNA1C,KCNE1, TRDN 遺伝子に対する遺伝学的検査を考慮する. IIa C後天性LQTS *に対するKCNQ1, KCNH2, SCN5A, KCNE1, KCNE2 の遺伝学的検査を考慮する. IIa C Schwartz score:1.5 ~3.0 点または12誘導心電図で480 ≧QTc >460 msec (未成年)または500 ≧QTc >480 msec(成人)を呈する無症状のLQTS 症例に対する,すべての,またはLQTS の原因として確実な遺伝子についての遺伝学的検査を考慮してもよい. IIb C * 薬剤,低カリウム,徐脈などが誘因となるTdP を認め被疑薬等の 影響がない心電図でQTc>440 msec(男性),>450 msec(女性)