p.60 抽出テキスト
第9章 不整脈疾患 1 QT 延長症候群(LQTS) 1.1 LQTS とは LQTS は心電図上のQT 間隔の延長とT 波形の異常を特徴とし,トルサードドポアント(Torsade de Pointes: TdP)と呼ばれる多形性心室頻拍を生じ,失神発作や心臓突然死の原因となる疾患である.先天性LQTS はSchwartz score ≧3.5 点285) (「2022 年改訂版不整脈の診断とリスク評価に関するガイドライン」242)表20 を参照)または繰り返し記録された12 誘導心電図でQTc ≧500 msec を認める場合に診断されるが,LQTS 関連遺伝子に病的バリアントを認める場合にも診断される286).先天性LQTS は遺伝性不整脈疾患では比較的頻度が高く,欧米の報告では有病率は約2,000 人に1 人287),わが国の乳児健診では約1,100 人に1人が先天性LQTS と診断されている288).また先天性LQTS の他に,普段のQT 時間は正常あるいは境界域でも薬剤や低カリウム血症,徐脈などが誘因となりQT 延長, TdP をきたす後天性(2 次性)LQTS がある.後天性LQTS でも先天性と同じ病的バリアントが30% 近く見つかる289)ため,両者の区別はあいまいになりつつある. 1.2 遺伝学的背景 先天性LQTS は遺伝形式から常染色体顕性遺伝(優性遺伝)形式のRomano-Ward(RWS)と,先天性聾を伴い常染色体潜性遺伝(劣性遺伝)形式のJarvell and Lange-Nielsen 症候群(JLNS)に分けられるが,先天性LQTS の多くはRWS である.先天性LQTS と臨床診断される患者の7 ~8 割に原因遺伝子が同定され290),そのほとんど(90%)がKCNQ1,KCNH2,SCN5A である.また上記3 遺伝子に加えてCALM1 ~3 が先天性LQTS の原因遺伝子として重要である(表28) 50, 250, 291).さらにTRDN の病的バリアントがホモ接合体の場合にLQTS の 原因の可能性があり,KCNQ1,KCNE1 のホモ接合体バリアントはJLNS の原因となり,KCNE1,KCNE2 は後天性LQTS との関連が強い. QT 延長以外の表現型を合併する疾患として,CACNA1 CのG406R やG402S など一部の変異は特徴的な顔貌や合指症,徐脈や先天心奇形などを合併するTimothy 症候群,KCNJ2 は周期性四肢麻痺に著明なU 波と骨格奇形を伴うAndersen-Tawil 症候群の原因として重要である. CACNA1C のその他の病的バリアントも非TS 型LQTS の原因となるが292),エビデンス的にはやや劣る. 先天性LQTS の浸透率は100% ではなく,病的バリアントを有するが心電図上QT 延長を生じない例もある.また同じ遺伝子でもバリアントごとにQT 延長の程度や症状の有無などが異なる.遺伝子型でイオンチャネルの機能異常は異なり,心筋カリウムチャネルの遺伝子であるKCNQ1, KCNH2, KCNJ2 では機能低下・喪失型,心筋ナトリウムチャネルの遺伝子であるSCN5A やCa チャネルの遺伝子であるCACNA1C では機能獲得型のバリアントが原因である(表28) 250, 291).SCN5A の機能獲得型バリアントは表現型がLQTS だが,機能低下・喪失の場合はBrugada 症候群や洞不全症候群,進行性心臓伝導障害などになる.さらにSCN5A-E1784K のように機能獲得型と喪失型の両方の特徴を持つ変異があり,同一家系内でも表現型がLQTSとBrugada 症候群や伝導障害等が混在することもある293). 病的バリアントはミスセンス変異,ナンセンス変異やフレームシフト変異など多彩である.必ずしもバリアントの種類は疾患の重症度に関連しないが一部のバリアント(KCNQ1-A341V や,SCN5A-V411M など)では重症化リスクが高いことが知られている. 1.3 遺伝学的検査の適応 先天性LQTS の遺伝学的検査の適応は,これまでは12誘導心電図のQT 時間を基準にQT 延長が顕著(未成年: QTc ≧ 480 ms,成人:QTc ≧500 ms)な場合は積極的に, QT 延長の可能性が高い(未成年:480 >QTc ≧460 ms,成