p.58 抽出テキスト
二次性心筋症の診断においては,遺伝学的検査が重要な役割を果たす疾患が存在する.遺伝学的検査の前に,既往歴,家族歴,心臓外の全身症状,検査所見などの臨床情報を正確に評価し,遺伝学的検査の検査前確率を上げることも重要である.表26 に各心筋症様形態をとる遺伝性二次性心筋症を記した.心筋症患者において,これらの疾患を疑った場合には診断のために積極的に遺伝学的検査を考慮すべきである(表27). 4.2 遺伝性トランスサイレチンアミロイドー シス 肝臓で産生される血漿蛋白であるトランスサイレチン(TTR)をコードするTTR 遺伝子異常を原因とし,常染色体顕性遺伝(優性遺伝)形式をとる疾患である252).旧病名である家族性アミロイドポリニューロパチーが示す通り,末梢神経症候,自律神経症候が多く,次いでHCM 様病態を示すことが多いとされる.これまで150 以上の変異が報告されており,その大部分がミスセンスバリアントである253).その中でもVal30Met が最も頻度の高い代表的なバリアントとして知られている253, 254).わが国での発症年齢は50 歳以下が多いとされるが,集積地(熊本県,長野県)か否か,Val30Met 変異か否かで好発年齢や予後が異なる255-257).初発症状としての心症候の合併は集積地のearly onset 型ではほとんど認めないものの,非集積地ではVal30Met で2 ~4%,非集積地の非Val30Met 型で35%と異なることも報告されている. TTR 遺伝子変異によってTTR 四量体の不安定化を招き, TTR 単量体がミスフォールドすることにより,アミロイド 線維の形成に至る258, 259).そして,アミロイド線維が組織へ沈着することで,各臓器で症状が生じる.病態が進行すると,重度の末梢神経障害,心障害,呼吸障害を生じて死に至る. トランスサイレチン心アミロイドーシスには遺伝性の他に野生型が存在する.近年診断技術の向上に伴って,野生型の診断が増加しているが,確定診断のためには遺伝性と野生型を鑑別する目的で遺伝学的検査が必須となる260).本疾患の詳細については「2020 年版心アミロイドーシス診療ガイドライン」260)も参照されたい. 4.3 Fabry 病 αガラクトシダーゼをコードするGLA の遺伝子変異により生じる,X 連鎖性の遺伝性疾患であり,これまでに1,000種類以上のGLA 遺伝子のバリアントが報告されている261).αガラクトシダーゼ活性が低下し,本来代謝されるはずの糖脂質であるGb3 が組織へ蓄積することで発症に至る262, 263). 小児期から四肢末端痛や低汗症,角膜混濁などの症状を 表27 二次性心筋症における遺伝学的検査の推奨とエビデンスレベル 推奨クラスエビデンス レベル 遺伝性二次性心筋症の確定診断のための遺伝学的検査を行う. I B 表26 表現型と疑うべき遺伝性疾患 心筋症の表現型疑うべき遺伝性疾患 肥大型心筋症様形態浸潤性疾患遺伝性ATTR アミロイドーシス 代謝異常Fabry 病Danon 病Pompe 病PRKAG2 遺伝子異常神経筋疾患Friedreich 失調症ミトコンドリア病MELAS 病,MERRF 病などMalformation Syndrome Noonan 症候群 拡張型心筋症形態浸潤性疾患遺伝性ATTR アミロイドーシス(進行期) 代謝異常Fabry 病(進行期) Pompe 病Hurler 症候群,Hunter 症候群全身症候性ミトコンドリア病,筋ジストロフィー,ラミノパチー