p.50 抽出テキスト
の機能低下により,特徴的な顔貌,先天性心疾患,精神遅滞をきたす常染色体顕性遺伝(優性遺伝)またはX 連鎖性疾患. 2.4.2 頻度 出生32,000 人に1 人. 2.4.3 遺伝的要因 クロマチン構造の調節に関与し,遺伝子の転写制御を行うメチル化酵素をコードするKMT2D/MLL2 遺伝子(12q13.12),脱メチル化酵素をコードするKDM6A 遺伝子(Xp11.3)の病的バリアントにより発症する.KMT2D バリアントが約80% を占める172).ほとんどが新生突然変異で, KMT2D 遺伝子バリアントは常染色体顕性遺伝(優性遺伝),KDM6A 遺伝子バリアントはX 連鎖性遺伝形式で伝達される.KDM6A 遺伝子はX 染色体不活化を受けず,男女とも発症する.遺伝子検査は保険収載され,公益財団法人かずさDNA 研究所 かずさ遺伝子検査室28)で受託している. 2.4.4 症状・予後・管理 切れ長の眼裂で下眼瞼が外反し,歌舞伎役者の隈取のように見えることから命名された.加えて,外側1/3 の薄く疎な眉毛,先端がつぶれた鼻と短い鼻柱,突出した大きな耳介などの顔貌上の特徴を認める.指尖部の膨隆(finger pad)も特徴的な所見である.軽度から中等度の精神発達遅滞,成長障害(低身長),複数の臓器にわたる先天異常を合併する例が多い.中耳炎を繰り返し,伝音性難聴の原因となることがある.約70% に心疾患を合併し,CoA,僧帽弁狭窄など左心系閉塞性疾患が特徴的である.その他, BAV,VSD,僧帽弁逸脱,TOF,DORV,TGA,単心室など多岐にわたる173). 2.5 Noonan 症候群,CFC 症候群, Costello 症候群 2.5.1 概念 顔貌上の特徴,先天性心疾患,骨格異常,精神発遅滞,リンパ管異常を特徴とする常染色体顕性遺伝(優性遺伝)疾患. 2.5.2 頻度 出生1,000 ~2,500 人に1 人. 2.5.3 遺伝的要因 臨床的に診断される症例の約70% で,遺伝子の病的バリアントが同定される.12 番染色体長腕q24.1 に座位するPTPN11(protein-tyrosine phosphatase nonreceptor-type 11)遺伝子の病的バリアントが最も多く,約半数に認められる.孤発例が多い.PTPN11 は非受容体型蛋白チロシンリン酸化酵素で,Noonan 症候群に認める病的バリアントはNSH2(N-terminal SRC homology 2)領域とPTP (phosphotyrosine phosphatase)領域に集積しており,病的バリアントによる機能獲得性変化がNoonan 症候群の発症に関与すると考えられている.従来LEOPARD 症候群と呼ばれていた多発性黒子を伴うNoonan 症候群(Noonan syndrome with multiple lentigines: NSML)では,しばしばHCM を合併し,PTPN11 遺伝子の機能喪失性変化の関与が示唆されている.PTPN11 以外にRAS/MAPK シグナル伝達経路に関与するSOS1(11%), RAF1(5%), RIT1 (5% 弱)などの病的遺伝子バリアントが判明している174). Costello 症候群,cardio-facio-cutaneous (CFC)症候群は,いずれも顔貌上の特徴,相対的大頭,先天性心疾患, HCM,精神運動発達遅滞など,類似した臨床表現型を呈するが,近年各々の疾患原因遺伝子が,RAS/MAPK (mitogen-activated protein kinase)経路の細胞内シグナル伝達経路に関与していることが判明し,Noonan 症候群,NSML とともにRAS/MAPK シグナル異常症候群(RASopathies)として包括された175).Costello 症候群ではHRAS 遺伝子病的バリアント,CFC 症候群ではBRAF, MEK1/2,KRAS 遺伝子病的バリアントが原因と考えられている.これらの遺伝子検査は保険収載され,公共財団法人かずさDNA 研究所 かずさ遺伝子検査室28)で受託している. 2.5.4 症状・予後・管理 低身長,軽度の精神発達障害,特徴的な顔貌(眼瞼下垂,眼間開離,内眼角贅皮,眼裂斜下,鞍鼻,耳介低位・変形,小顎),翼状頸,後頭部毛髪線低位,胸郭異常(漏斗胸,鳩胸など),脊椎異常(側彎・前彎,二分脊椎など),停留精巣,出血傾向(第XI,XII,VIII凝固因子欠乏,血小板減少),若年性骨髄単球性白血病,リンパ浮腫,乳糜胸などを合併する.低身長に対して成長ホルモン補充療法が行われ,成長ホルモンによるHCM の発症や増悪を示すデータはないが,定期的な心エコー検査が推奨されている. 心疾患は80% に合併し,そのうちの60% は先天性心疾患,20% はHCM である.先天性心疾患では,弁異形成を伴うPVS やASD が多く,VSD,TOF,CoA,AVSD