p.44 抽出テキスト
早期から肺高血圧の合併が多く,わが国の調査では52%に認められた136).剖検では,25 例中8 人(32%)に肺動脈中膜肥厚,内膜増生が認められた137).肺動脈の組織学的検討では,46.4% に肺小動脈の低形成を,14.3% に肺小動脈中膜の欠損を認め,高肺血流による物理的なストレスに対して,内膜の線維増生が招来され,肺血管閉塞性病変に移行する機序が推測されている.また,75% に肺胞壁肥厚,53.5% に肺胞低形成の所見が認められ,肺高血圧増悪のリスクと考えられる138). c.心臓手術の適応 生命予後不良の疾患であるため,従来は内科的治療が主体であったが,近年は生命予後向上と安定した在宅生活を目指して姑息術や心内修復術が行う施設が増加している.心外合併症の重症度,家族の意思を考慮して手術の適否を決める必要がある.近年,心内修復術後の生存例の報告も増加しており,米国の18 トリソミーの心臓手術65 人,13トリソミー30 人の調査では,心内修復術症例の術後生存率が姑息手術症例より有意に高いことが示され(15 年生存率 70.7% vs 30.8%),18 トリソミーの術後遠隔期の生存期間(中央値)は16.2 年であった139).わが国のNakai らの報告では,18 トリソミー,VSD 18 症例に対して,肺動脈絞扼術の後,両親が強く希望すれば心内修復術を行い,14人(78%)が退院後生存し,術後生存期間(中央値)は, 46.3 ヵ月であった140). 一方,心臓手術のために入院した18 トリソミーの死亡率は13% で,特に心室中隔欠損等の単純型心疾患の手術については,非トリソミーの場合より約10 倍高い死亡率であり,死亡例では,生存例より手術時に日齢が小さい,平均肺動脈圧が高い,肺血管抵抗値が高いという特徴が見られた139).術前に人工呼吸管理を要した症例で,術後の死亡率が高いという報告もされている141).HLHS などの複雑型心疾患に対しては,現状では積極的に手術は行われていない142).家族に心臓手術の適応を説明する際には,手術が生命予後を改善させる可能性があるが,手術に伴う生命のリスクは非18 トリソミーと比較して高い142)という事実も伝える必要がある. d.その他の症状i.悪性新生物 Wilms 腫瘍や肝芽腫を認める.Wilms 腫瘍は新生児期から腎腫瘤として発見されることがある.肝芽腫は腹部腫瘤,血清α-フェトプロテインの上昇から診断される.化学療法や手術による切除も行われている143). ii.中枢神経疾患 重度精神発達遅滞,筋緊張低下,亢進,中枢性無呼吸,けいれん,小頭症,小脳低形成,全前脳胞症,脳梁低形成・欠損など144). iii.頭頸部症状 後頭部突出,頭蓋幅狭小,大泉門拡大,眼間開離,内眼角贅皮,白内障,角膜混濁,上向きの外鼻孔,短い鼻,後鼻孔閉鎖,耳介低位,眼裂短小,口蓋狭小,小顎,口唇口蓋裂,小眼球,難聴,小耳症. iv.骨格系症状 第2 指の第3 指への重なり,第5 指の第4 指への重なり(overlapping finger),合指症,第5 指単一屈曲線,橈骨欠損 ,外転尖足・外反踵骨,揺り椅子状の足底(rocker-bottom feet),関節拘縮,側弯,椎骨・肋骨形成異常. v.呼吸器疾患 肺低形成,喉頭軟化症,右肺分葉異常,気管食道瘻,気管軟化症. vi.消化管疾患 食道閉鎖,臍帯ヘルニア,鼠径ヘルニア,腸回転異常,回腸閉鎖,鎖肛・肛門位置異常.食道閉鎖に対して,胃瘻造設にとどめた症例より,一期的ないし二期的に食道吻合術を行った症例で1 年生存率が高いと報告されている144). vii.泌尿生殖器疾患 停留精巣,水腎症,多嚢胞腎. viii.内分泌疾患 甲状腺機能低下症,遷延性低血糖. ix.皮膚疾患 過剰皮膚,前頭部から背部の多毛,皮膚斑紋の強調.集学的治療により近年では生存率が改善している可能性があり,個々の症例に応じた柔軟な対応が求められるようになっている134, 145). 1.5 13 トリソミー症候群 1.5.1 疾患概念 13 番染色体のすべてまたはその一部の重複を原因とし,種々の外表・内臓異常と精神運動発達遅滞を合併する症候群.約90% に先天性心疾患を伴う.18 トリソミーと同様に,無呼吸などにより1 歳までに約90% が死亡するとされ,生命予後不良のため,心臓手術は控えられてきた.近年では綿密な遺伝カウンセリングを経て,手術を行う症例が増加している.ただし明確な手術適応基準はない. 1.5.2 診断 染色体検査(G 分染法,または13 番染色体プローブを用いたFISH 法).検査は保険収載され,検査会社で行われている.