p.34 抽出テキスト
embolism: VTE) は,今なお妊産婦死亡に占める割合が高い.VTE は深部静脈血栓症 (deep vein thrombosis: DVT)と肺血栓塞栓症 (pulmonary thromboembolism: PTE) を合わせた疾患概念である.VTE 発症の誘因の1 つに遺伝性血栓性素因が挙げられる.血液凝固制御因子であるアンチトロンビン(AT),プロテインC (PC),プロテインS (PS)の先天的な欠乏は凝固優位となり,VTE の危険因子である.いずれも常染色体顕性遺伝(優性遺伝)形式を取る.遺伝性血栓性素因と妊娠関連DVT 患者の遺伝的背景に関する国内の研究では,妊娠関連DVT 患者全員のAT,PC, PS をコードする遺伝子,SERPINC1,PROC,PROS1 の遺伝学的検査の結果,18 人の妊娠関連DVT 患者のうち5人に凝固制御因子にバリアントを認め,特に日本人に多くみられるPS p.Lys196Glu は2 人に同定された.これより遺伝性血栓性素因は妊娠関連DVT の危険因子と考えられた92).なお,5 人の病的バリアント保有者は妊娠初期から中期にかけてDVT を発症していたことから,妊娠初期からの厳重な管理が必要であると考えられた.これら遺伝性血栓性素因は,現時点ではACMG が発表した,臨床検査としての網羅的遺伝子解析における二次的所見に関する勧告の中に記載はされていないが,予防的な介入ができるいわゆる actionable な疾患であるため,疾患についての正確な情報を伝えることが重要である. ワルファリンは胎児の催奇形性,頭蓋内出血などのリスクがあるため,妊娠中の使用は勧められず,妊娠中は未分画ヘパリンによる治療が主体となる.そのためワルファリン服用中の女性が妊娠を希望する場合は計画的に妊娠する必要があり,妊娠した場合は妊娠6 週より前には投与を中止し,妊娠早期にヘパリンに切り替える.AT 欠乏症妊婦では特に量的欠乏症であるI型の場合は,AT 製剤の補充を検討する.詳細な妊娠中の管理方法については「遺伝性血栓性素因患者の妊娠分娩管理に関する診療の手引きQ &A」を参照されたい93, 94). 7 出生前検査および診断の種類 胎児における出生前検査および診断には,確定的検査(診断がほぼ確定)と非確定的検査(正確な診断には確定的検査がさらに必要)の2 つがある.絨毛・羊水検査は確定的検査であり,超音波検査,母体血清マーカー検査,コンバインド検査および非侵襲性出生前遺伝学的検査(noninvasive prenatal genetic testing: NIPT)は非確定的検査である. 7.1 実施対象 出生前検査および診断は,下記のような場合の妊娠で夫婦からの希望があり,検査の意義について十分な理解が得られた場合に行う.・ 夫婦のいずれかが染色体異常の保因者である場合.・ 染色体異常症に罹患した子どもを妊娠,分娩した既往を 有する場合.・ 高年妊娠の場合.・ 妊婦が新生児期もしくは小児期に発症する重篤なX 連 鎖遺伝性疾患のヘテロ接合体の場合.・ 夫婦のいずれもが,新生児期もしくは小児期に発症する 重篤な常染色体潜性遺伝(劣性遺伝)性疾患のヘテロ接合体の場合.・ 夫婦のいずれかが,新生児期もしくは小児期に発症する 重篤な常染色体顕性遺伝(優性遺伝)性疾患のヘテロ接合体の場合.・ その他,胎児が重篤な疾患に罹患する可能性のある場 合. 7.2 遺伝学的検査および診断の注意点 日本産科婦人科学会の「出生前に行われる遺伝学的検査に関する見解」を尊重し,倫理的および社会的問題を包含していることに留意することが重要である. 特に以下の点に注意して実施する.・ 胎児が罹患児である可能性(リスク),検査法の診断限 界,母体・胎児に対する危険性,副作用などについて検査前によく説明し,十分な遺伝カウンセリングを行うこと.・ 検査は,十分な基礎的研修を受けて,安全かつ確実な検 査技術を習得した産科医により,またはその指導の下に行われること.・ 胎児循環器疾患の診断を目的とした出生前の遺伝学的検 査は実施されていない. 7.2.1 羊水検査 妊娠15 ~16 週以降に実施され,羊水中に浮遊する胎児由来の細胞を採取し,培養ののち染色体診断・遺伝子診断を行うものである. 流産や胎児死亡などの合併症が300 ~500 人に1 人程度の頻度で起こるといわれている.