p.32 抽出テキスト
4 心臓血管疾患をもつ女性の 妊娠前遺伝カウンセリング 妊娠前カウンセリング(pre-pregnancy counselling,preconception counselling)は既知の心臓血管疾患を有するすべての生殖可能年齢の女性に勧められるべきである.妊娠中にカウンセリングが実施される場合は,妊娠中のできるだけ早期に心疾患に起因する産科的問題に関するカウンセリングを行うべきである83). カウンセリングの目的は可能な限り母親と胎児に及ぼす妊娠のリスクを減らすことである.すなわち,正確な母体および胎児に対するリスクの層別化,心臓血管病変の最適化,妊娠前の介入の可能性についての議論,妊娠中の薬物の安全性の見直し,妊娠,分娩,および出産のための詳細な計画を立てることである83-85).母体と胎児の両面からのリスク評価が必要であり,母体では妊娠中の心血管イベント(心不全,不整脈,血栓塞栓症,感染性心内膜炎,大動脈解離など),妊娠中あるいは産褥期の妊産婦死亡のリスク,妊娠による長期的予後に及ぼす影響,あるいは妊娠を回避すべき場合の安全な避妊法などが挙げられる. 医学的にもっとも重要なカウンセリング内容は,妊娠のリスク評価である.リスク評価法について種々の研究がなされてきたが,現在のわが国の心疾患診療の実情においては,modified World Health Organization (WHO) 分類86, 87)を基本とし,これにわが国の現状を加味した概念がもっとも適切であると考えられている.必要に応じ,CAR- PREG II リスクスコア84),ZAHARA リスクスコア88)を適応させて,総合的にリスクを把握する75). 胎児のリスクについては,母体に投与された薬剤による先天性疾患のリスク,胎児発育不全や子宮内胎児死亡,早産のリスクについて説明する.Marfan 症候群,先天性LQTS などの児への遺伝のリスクについても説明する.必要があれば薬剤を妊娠前から計画的に変更する.「循環作動薬の妊娠中の内服」について,また「心疾患をもつ女性の妊娠前カウンセリング」については「心疾患患者の妊娠・出産の適応,管理に関する ガイドライン(2018 年改訂版)」も参照されたい75). なお,妊娠中は子宮外妊娠,流産,早産,多胎妊娠,前置胎盤,常位胎盤早期剥離,妊娠高血圧症候群,妊娠糖尿病,胎児発育不全,胎児機能不全などの産科合併症を発症することもあること,さらに高年妊娠では産科合併症のリスクや胎児染色体疾患の発症率が高まることなども,一般的な注意事項として必要である.HCM や肺高血圧症などの思春期以降に発症することの多い疾患においては妊 娠高血圧性腎症や早産といったハイリスクの妊娠合併症が多いという報告もある89).また,心臓血管疾患の増悪因子となる糖尿病,肥満,高脂血症90)などを改善しておく必要もある. 特に妊娠前の遺伝カウンセリングでは,児への遺伝リスクだけではなく,クライエント自身の心血管疾患の責任遺伝子の同定や,疾患の中でのタイプ分類が妊娠・出産に向けて重要な場合がある.結合織疾患や遺伝性不整脈では,循環器専門医,産婦人科専門医,臨床遺伝専門医,認定遺伝カウンセラーなどを交えて十分なカウンセリングが必要である. 多くの心臓血管疾患は妊娠が許容されることが多いが,なかには妊娠が許容されない,あるいは禁忌の疾患もあるため,その場合は血栓リスクの少ない安全な避妊方法の指導も必要である. 産褥期以降もリスクが高い心疾患もあり,授乳や育児の負担の軽減や家族のサポートが得られるかといった点,あるいは長期的な予後への影響についても十分に話し合う必要がある.避妊方法も含めて詳細は「心疾患患者の妊娠・出産の適応,管理に関する ガイドライン 2018 年改訂版」の(p.11)を参照されたい75). 5 心臓血管疾患をもつ女性における 妊娠前遺伝カウンセリングの一般 的注意事項 疾患ごとの遺伝カウンセリングの詳細については,該当する他章を参照されたい.心臓血管疾患患者の妊娠においては,心疾患の児への遺伝の可能性を遺伝学的な知識をもとに正確に伝える必要がある.またMarfan 症候群などの遺伝性結合組織疾患や先天性LQTS などの遺伝性不整脈など,クライエント自身の疾患が遺伝子診断に基づいたリスク層別化の可能性やタイプごとに治療方針が推奨されている場合は,遺伝学的検査が重要となる. 遺伝カウンセリングでは,クライエントの意思決定を誘導するのではなく(非指示性),意思決定の手助けをする姿勢(支援的態度)が求められる.そのため,心臓血管疾患の妊娠前遺伝カウンセリングは,遺伝学・心臓病学・疫学の十分な知識と経験をもち,遺伝カウンセリング一般の基礎的技術を身につけた習熟した臨床遺伝専門医あるいは認定遺伝カウンセラーで,かつ妊娠に伴う生理的な変化や妊娠が心血管に及ぼす影響を熟知した担当者によって実施されることが望ましい.カウンセリング担当者は必ずしも医