p.29 抽出テキスト
限界や,臨床診断との関連について十分な理解のうえで遺伝学的検査受検に臨むことが必要である53). 遺伝学的検査結果以外にも,遺伝性疾患の診断・治療・予防のさまざまな局面で不確実性が生じうる54).疾患に係る不確実性は,患者に心理社会的負担をもたらし,疾患やそのリスクに適応し,新たなライフスタイルを獲得することの障害となりうる55).特に,遺伝性循環器疾患では,一見健常人と同じように生活していても,ちょっとしたトリガーによって突然死など重篤な転帰をたどることがある.そしてそれがいつ生じうるかわからないことから,不確実性による心理的負担が大きくなるリスクがある.そのため,不確実性がクライエントにもたらす過大な影響を軽減するとともに,患者やその家族が不確実性に対処する能力を身につけるための支援が重要となる.まずは,治療にあたる医療スタッフと,遺伝医療の専門家が,検査の結果に関するあいまい性について共通した理解をもちつつ,治療やリスク管理の方法については一致した対応をし,患者やその家族が経験する不確実性を減らすことが重要である.そのうえで,不確実性によってもたらされる心理的負担には,遺伝カウンセリングの専門家が,心理的介入や後述する行動変容支援を通して対応する56, 57). 2.4.2 疾患の発症・進展予防を目的とした行動変容支援 としての遺伝カウンセリング 遺伝性疾患における遺伝カウンセリングのプロセスは,対象疾患への有効な治療や予防の選択肢を取りうる可能性(actionability)によって方向性が異なる58).ACMG が定めるactionable な遺伝性疾患の原因遺伝子81 のうち,約半数(40 遺伝子)を遺伝性循環器疾患の遺伝子が占める59) (表6)ことからもわかるように,遺伝性循環器疾患は早期の診断が治療,予防に結び付く可能性が高い疾患群といえる.そのため,遺伝性循環器疾患の遺伝カウンセリングは,遺伝性疾患の診断(必ずしも遺伝学的検査による診断によらない)とそれに基づく療養行動あるいは予防行動を,患者や家族の疾患への適応プロセスの中に取り込むことの支援に重点を置く.そのようにして,疾患がもたらす医学的影響への患者や家族の対処能力を高めつつ,同時に生じうる心理的影響や家族への影響について支援する.そのためには,治療を提供する医師,生活習慣指導・服薬指導を担当する看護師や薬剤師などと密に連携し,患者や家族の心理的課題への適応状態が療養や予防行動に悪影響をもたらしていないかをアセスメントし,適時的に遺伝カウンセリングを提供することが望ましい56). 2.5 小児,若年者への遺伝カウンセリング 遺伝性循環器疾患の中には,小児・若年から医学的管理の対象となる疾患も少なくない.小児・若年者が対象であっても,遺伝カウンセリングの目的は変わらないが,発達段階を考慮した遺伝カウンセリングが重要となる.小児・若年者は,自己のアイデンティティが周囲の人間との関係性のなかで形成されていく時期である.遺伝性循環器疾患を有することで,継続的な服薬,運動制限,通院等の自己管理行動をとらなければならないことにより,他者と異なるさまざまな経験をすることとなる.そのような経験そのものは,小児発症疾患共通といえる. 一方,遺伝性循環器疾患においては,それらのセルフマネジメント行動の主眼は,小児自身が知覚できる現有する症状に対してではなく,現在あるいは将来のイベント発生リスクに対する予防的観点にあることが特徴的である.そのため,児が行動の必要性や意義を認識することが難しく,行動を実践することによるさまざまな負担が重なって,児のアドヒアランス維持が困難になりうる.児が自らすすんでセルフマネジメント行動を継続できるよう,自身が置かれている独特な状態の理解を促進することが遺伝カウンセリングの目的となる60).小児に対する遺伝カウンセリングでは,成人の遺伝カウンセリング以上に,その効果が児と遺伝カウンセリング提供者との関係性に依存する61).そのため,遺伝性循環器疾患の遺伝カウンセリングにおいては,小児領域の遺伝カウンセリングのスキルを身につけておかなければならない. また,児へのセルフマネジメント支援に加え,主介護者(一般的には親)への適応支援も重要である.遺伝性循環器疾患家系においては,突然死の家族歴があることも少なくない.その経験は,子において再発するリスクがあることへの恐怖につながりうる.その恐怖への対処が,児の生活に対する過度の制限や,児のセルフマネジメントを阻害するような過介入の形で現れることもある.反対に,遺伝性であることからコントロール感を喪失し,適切な介護者役割を果たすことができないこともある.主介護者においては,疾患のactionability に関して十分な理解を促し,適切な介護者行動をとることが適応支援の目的といえる.主介護者が受療行動を継続すること,家庭内や学校でのイベント発生に備えた行動(AED の設置や場所の確認等)を起こすこと,避けるべき事項(禁忌行動や薬剤等)を知りそれを実行することを支援し,そのコントロール感向上を図ることが有効である.また,児は発達とともに,主介護者の手を離れ,成人としてのセルフマネジメントに移行してい